2020 Fiscal Year Annual Research Report
直接リプログラミングによるヒト肺細胞分化誘導法の開発
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20J12690
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
楠本 竜也 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 直接リプログラミング / Ⅱ型肺胞上皮細胞 / 肺線維芽細胞 / レンチウイルス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、「難治性肺疾患治療への臨床応用を主眼に、シンプルかつ効率的な肺再生医療を実現するため、ヒトにおける直接リプログラミングによる体細胞から肺上皮様細胞の誘導法の開発をすること」を目的とする。採用第1年度である令和2年度は、ヒト肺線維芽細胞に導入することで肺上皮様細胞を誘導するために最適な転写因子の組み合わせを選定することを目標とした。 採用者は、肺の発生に重要な転写因子15種を候補とし、レンチウイルスを用いてヒト初代肺線維芽細胞に15因子を導入した。誘導効率の上昇を目的に培地に各種増殖因子等の液性因子を加え、7日間の3次元培養を行った。Ⅱ型肺胞上皮細胞の特異的マーカーであるSP-C遺伝子の発現を検討し、コントロールに対しSP-C mRNAの上昇を認めた。そして、15因子の各種因子の組み合わせの検討から特異的3因子が必須であることを見出した。 採用者は、qPCRによる特異的3因子による誘導細胞の肺マーカー遺伝子発現解析を行った。結果、Ⅱ型及びI型肺胞上皮細胞のマーカー遺伝子発現の上昇を確認し、特異的3因子の導入により、Ⅱ型及びI型肺胞上皮細胞等が混在するヘテロな細胞集団の誘導に成功している可能性が示唆された。 次に、SP-C/EGFPリポーター遺伝子(SP-C発現時にEGFP蛍光を発現するリポーター遺伝子)を導入した初代肺線維芽細胞を作成し、レンチウイルスを用いて特異的3因子を導入した。培地に各種増殖因子等の液性因子を加え、2次元培養に移行した。因子導入1日後にはEGFP蛍光陽性の細胞が出現し、導入3日後には全細胞の約54%がEGFP陽性となった。 ここまでの実験から、肺線維芽細胞に特異的3因子を導入することで、Ⅱ型及びI型肺胞上皮細胞の直接誘導に成功している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は、複数の候補となる転写因子の中から、ヒト肺線維芽細胞に導入することで、高度のSP-C mRNAの上昇を認める特異的3因子の組み合わせを見出した。また、SP-C遺伝子以外のⅡ型及びI型肺胞上皮細胞の各種マーカー遺伝子発現の上昇も確認しており、Ⅱ型及びI型肺胞上皮細胞等が混在するヘテロな細胞集団の誘導に成功している可能性を指摘した。 本研究で用いられている直接リプログラミング法は、幹細胞を用いずに体細胞を直接的に肺細胞へ変換させる手法であり、生体内に多く存在する線維芽細胞等の体細胞を細胞供給源とし、幹細胞を経ずに短時間で効率的に生体適応性の高い肺上皮細胞を直接誘導することを目指す点で、従来の幹細胞を使用した再生医学とは全く異なる独創性がある研究である。肺の上皮系細胞へ直接分化誘導する報告はこれまでに存在せず、新たな知見を見出したと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
ここまでの実験から、肺線維芽細胞に特異的3因子を導入することで、Ⅱ型及びI型肺胞上皮細胞の直接誘導に成功している可能性が示唆された。今後は、SP-C発現細胞のセルソーティングを行い、ソーティングしたSP-C発現細胞の再度のRNA sequenceやソーティングを用いた継代による長期維持培養を試みる。また、誘導細胞の免疫蛍光染色でSP-C遺伝子などの肺胞上皮細胞関連蛋白の蛋白レベルでの発現の確認も計画している。 上記を確認したのちに、ソーティングしたSP-C発現細胞のsingle cell RNA sequenceを行い、ヒト線維芽細胞からの肺胞上皮細胞の誘導に成功したことの証明を目指す。
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