2020 Fiscal Year Annual Research Report
ミトコンドリアへのホスファチジルセリン新規輸送機構の解明
Project/Area Number |
20J12899
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
藤井 悟 九州大学, 理学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | リン脂質 / 細胞内輸送 / ミトコンドリア / 小胞体 / ホスファチジルエタノールアミン / 出芽酵母 |
Outline of Annual Research Achievements |
真核細胞において小胞体とミトコンドリアはリン脂質生合成の主要な場である。出芽酵母ではホスファチジルセリン(PS)は小胞体で生合成され、その多くはミトコンドリア内膜に輸送されPS脱炭酸酵素(Psd1)を介してホスファチジルエタノールアミン(PE)へと変換される。また近年Psd1が小胞体にも局在することが明らかとなっている。これまでに、小胞体膜タンパク質Ice2とScs2の二重欠損酵母で、Psd1を介したPE合成の低下を見出している。本研究ではIce2とScs2の二重欠損がどのようにミトコンドリアへのPS輸送およびPE生合成に影響するかを解明する。 まずIce2とScs2の欠損によるPsd1のタンパク量を調べた結果、Ice2の単独欠損酵母では小胞体膜上に局在するPsd1が著しく減少し、Scs2の単独欠損酵母ではミトコンドリア内膜に局在するPsd1が著しく減少していた。続いてIce2とScs2の欠損による遺伝子発現量への影響についてレポータージーンアッセイを用いて調べた結果、Ice2欠損酵母では遺伝子発現量は変化しなかったが、Scs2欠損酵母では遺伝子発現量が低下していた。さらにIce2の欠損による生育低下及びPE合成低下は、ミトコンドリア内膜のみに局在するPsd1をプラスミドで発現させても回復しないものの、小胞体膜のみに局在するPsd1をプラスミドで発現させると回復することが明らかとなった。以上の結果よりIce2の欠損により小胞体膜上でのPE合成が低下し、Scs2の欠損によりミトコンドリア内膜でのPE合成が低下することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記載しているように、Ice2とScs2の欠損によるPE合成の低下の原因について重要な研究結果が得られ、これらを起点とした研究を学会で発表することができたため。また当初の目的であった新規PS輸送機構の解明には至っていないが、Ice2欠損酵母における解析により、小胞体でのPsd1の新たなPE生合成調節機構の解明に近づいている。従って、研究は順調に進展しているが、論文発表には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、Ice2の欠損による小胞体膜上でのPE合成の低下、及びScs2の欠損によるミトコンドリア内膜でのPE合成の低下を示唆するデータを得ている。2021年度は、Ice2及びScs2のリン脂質代謝における機能をさらに詳細に解析する。また、Ice2の欠損酵母において、小胞体膜上のPsd1が減少することでPE合成低下と生育損傷が引き起こされることを明らかにした。これらの結果より、小胞体膜上に局在するPsd1は生理的に重要であると考えられる。またIce2の欠損酵母ではリン脂質の量が減少し、中性脂質の量が増加し脂肪滴が増加することが明らかになっている。以上のことから、特定のリン脂質の増減によって小胞体膜上のPsd1が調節されている可能性が考えられる。従って、今後Ice2の機能解析を通じて、小胞体膜上に局在するPsd1の局在機構及びその生理的意義の解明を試みる。 またPsd1は本来ミトコンドリアに局在するタンパク質であり、小胞体膜上での安定化の詳細なメカニズムについては未解明な点が多く存在する。さらに小胞体膜上に局在するPsd1は生理的に重要である一方で、ミトコンドリア内膜に局在するPsd1と比較して、定常状態におけるタンパク量が極めて少ない。現在、この原因として、小胞体膜上のPsd1は代謝回転が非常に速いのではないかと予想しており、今後この仮説を検証する。具体的には、シクロヘキシミドを用いて分解速度の解析などを行う。また様々なタンパク質分解機構に関する因子の欠損変異酵母を作製し、小胞体膜上に局在するPsd1の安定性への影響を調べることで、小胞体膜上での安定化機構の解明を試みる。
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