2020 Fiscal Year Annual Research Report
共鳴的周期駆動がもたらす非平衡特有の物性現象に関する研究
Project/Area Number |
20J12930
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
水田 郁 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
|
Keywords | 周期駆動非平衡系 / 量子多体スカー / 開放量子系 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は相互作用のある周期駆動非平衡系(Floquet多体系)に焦点を当てた研究を行なった。一般的なFloquet多体系は、エネルギーの吸収によって自明な定常状態に緩和してしまうという問題(加熱問題)が知られる。その問題を回避してFloquet多体系固有の物性現象を探索することを目的として、Floquet量子多体スカー、散逸のある開放Floquet多体系の研究を行なった。 前者のFloquet量子多体スカーに関して、加熱問題は経験則から成立すると信じられており、それが本当に一般の散逸のないFloquet多体系で成立するかは重要な問いであった。そこで、Rydberg原子系で実験的に観測された量子多体スカーと呼ばれる非平衡現象の知見を取り入れ、Floquet量子多体スカーを示すモデルを構築した。このモデルでは初期状態に依存して加熱の有無が変化し、散逸のないFloquet多体系で加熱問題が成立するという経験則を破る新たな非平衡系のクラスとなっていることを示した。 後者の開放Floquet多体系に関して、加熱問題を回避する手法として着目される散逸の下でどのようなダイナミクスが実現されるかに焦点を当てた。高周波展開という手法を利用して、Markov性というダイナミクスの性質を持つ開放Floquet多体系が、有効的にMarkov性を持たない時間非依存系によってダイナミクスで記述できることを示した。これは、散逸のないFloquet多体系が高周波領域で時間非依存系と同じ性質を持つという従来の理解と反対の結果で、散逸のある開放Floquet多体系では高周波領域で非平衡特有の新しい性質を持つダイナミクスを実現可能であることを示唆する結果である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
相互作用のある周期駆動非平衡系(Floquet多体系)において、高周波領域(周波数のエネルギースケールが物質のエネルギースケールに比べて大きい領域)では非平衡特有の現象を引き起こすことは困難であるとされる。当初の研究計画では、そのような見通しから共鳴的な領域(周波数のエネルギースケールが物質のエネルギースケールとほぼ同じ領域)にあるFloquet多体系の非平衡現象の探索を目的としていた。本年度の進捗は、以下の点で当初の研究計画以上に進展している。 1. 共鳴的領域でFloquet量子スカーという非平衡現象を示すモデルを構築できた。 2. 高周波領域でも散逸があれば非平衡特有の現象が現れうることを示せた。 まず、1については一般に共鳴的領域にあるFloquet多体系は解析的に計算することは困難とされるが、厳密に加熱されないFloquet多体系の固有状態を求めることに成功した。単純に共鳴的領域で顕著に現れるFloquet量子多体スカーという非平衡現象を見出しただけでなく、その数理的手法は共鳴的領域で別の非平衡現象を探索するのにも応用できると考えている。2についてはMarkov性という散逸のある系特有の性質を考えることで、散逸のあるFloquet多体系では高周波領域でも時間非依存系と異なる性質を持つことを示した。当初の計画では視野に入れていなかった高周波領域のFloquet多体系の可能性を広げるものであるという点で想定以上の進展である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方針として、従来の計画通り共鳴的領域にあるFloquet多体系に加えて、2020年度の成果を反映して高周波領域にあるFloquet多体系(特に散逸のある場合)にも着目して、それらでの非平衡特有のダイナミクス・定常状態の探索を行う。 具体的には、まず現在まで研究に引き続き、高周波領域における散逸下のFloquet多体系のダイナミクスに焦点を当てる。現段階の成果では、Floquet多体系においてその非平衡性に由来してMarkov性が破れることまでを明らかにしたが、その一方でその定量的評価は出来ていない。そこで、Markov性を有効的に破る散逸下のFloquet多体系がどのような非Markov的なダイナミクスとして記述できるかを明らかにし、どれほどの非平衡性が生じているかを定量的に理解することを目指す。次に、共鳴的領域にある散逸Floquet多体系の解析を行う。散逸のない場合と同様に、共鳴的領域は高周波領域と比べて非平衡性が顕著にダイナミクス・定常状態に現れると期待される。そこで、Sambe空間と呼ばれる周波数空間を用いることで、高周波領域の手法を共鳴的領域に拡張し、共鳴的領域にある散逸Floquet多体系がどのような非Markov的なダイナミクスで記述されるかを明らかにする。 上記の高周波領域・共鳴的領域での散逸Floquet多体系のダイナミクスの非Markov性を明らかにすることにより、非平衡であることによってどのような新しいダイナミクス・定常状態が現れるのかを定量的に理解することを目指す。
|
Research Products
(6 results)