2020 Fiscal Year Annual Research Report

脳梗塞治療を目指した細胞表面修飾による幹細胞ターゲッティング療法

Research Project

Project/Area Number	20J13363
Research Institution	The University of Tokyo
Principal Investigator	野入信人東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
Project Period (FY)	2020-04-24 – 2022-03-31
Keywords	細胞表面修飾 / 間葉系幹細胞(MSC) / ポリエチレングリコール結合脂質(PEG脂質) / 脳梗塞
Outline of Annual Research Achievements	本年度は細胞表面修飾材の合成と細胞を用いたin vitroにおける評価を行った。脳梗塞などの虚血部位に過剰発現していることが知られているE-セレクチンをターゲットとし、E-セレクチンと親和性の高いペプチド(ES-bp)を文献より探索した。このペプチドをPEG脂質に結合したもの(ES-bp-PEG脂質)を合成し、間葉系幹細胞(MSC)の表面に修飾した。表面修飾したMSCのE-セレクチン結合能と表面修飾による細胞機能への影響について評価した。また、異なる分子量のPEG(1, 5, 40 kDa)を用いることで修飾剤の分子構造の最適化を行った。 ES-bp-PEG脂質でMSCを修飾し、共焦点顕微鏡で観察したところ、細胞の表面に沿って蛍光が観察され、細胞内には見られなかった。このことから、ES-bp-PEG脂質が細胞表面に修飾されていることが示された。また、表面修飾されたMSCの生存率は85%以上であり、増殖率や分化能への影響もなかった。このことから、PEG脂質による細胞表面修飾は細胞為害性が低く、細胞機能に影響がないことが示された。 ES-bp-PEG脂質で修飾したMSCを、E-セレクチンを固定化したディッシュに播種し、位相差顕微鏡により観察した。PEGの分子量が5kDa以上では細胞接着が見られたが、PEGの分子量が1kDaでは細胞接着が見られなかった。これらにより、スペーサーとしてのPEGは分子量1kDaでは不十分であり、膜タンパク質などに埋もれて表面にES-bpが露出していないことが示唆された。また、ConP-PEG脂質修飾ではPEGの分子量によらず細胞接着は認められなかった。これよりE-セレクチンとES-bpの結合によりMSCが接着することが示された。以上の結果により、ES-bp-PEG脂質による細胞表面修飾は移植したMSCの脳梗塞部位への集積効率を向上できる可能性を見出した。
Current Status of Research Progress	Current Status of Research Progress 2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned. Reason 本研究課題の進捗状況は、概ね計画通りに進んでいる。新型コロナウィルスが原因で4月から6月にかけて、東京大学のロックダウンがあり、また、自身の体調不良に伴い、研究ができない期間があったが、研究は概ね順調に進んでいる。本年度は細胞を表面修飾する材料の合成に成功し、特に、脳梗塞部位へ集積できる材料の研究開発に成功した。細胞を用いたin vitroでの機能評価に成功しており、十分な成果が得られていると考えられる。
Strategy for Future Research Activity	麻酔下ラットの頸部正中を切開後露出した外頚動脈を切開し、一時間程度シリコンフィラメントを挿入して中大脳動脈を閉塞することで脳梗塞モデルを作製する。作製したモデルラットの脳部位の核磁気共鳴イメージング(MRI)および術前、術後のラットの行動評価から脳梗塞状態を評価する。in vivoにおいてペプチド-PEG脂質を修飾したルシフェラーゼ発現細胞を脳梗塞モデルラットに尾静脈から投与し、IVISカメラによるイメージングにより脳梗塞部位への集積率を定量的、経時的に解析する。また、表面修飾したMSCを移植し１ヶ月の経過観察を行い、in vivoイメージングによる梗塞体積の評価から構造的回復を、ロータロッド試験による運動評価から機能的回復をそれぞれ評価する。細胞移植から１ヶ月後、透明化試薬を用いて透明化した脳を超解像度顕微鏡により観察し、脳梗塞部位における血管新生や神経再生の３次元状態の解析から細胞移植による治療のメカニズムを解明する。さらに、これらの評価を移植時期、移植細胞数、移植方法を変化させて移植したラット脳梗塞モデルで行い、最適な移植条件を検討する。