2020 Fiscal Year Annual Research Report
脊椎動物における協同繁殖の進化要因の特定:カワスズメ科魚類を用いたアプローチ
Project/Area Number |
20J13379
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
佐伯 泰河 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | タンガニイカ湖 / カワスズメ科魚類 / 協同繁殖 / ヘルパー / 社会構造 / 分散様式 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究対象種であるタンガニイカ湖産カワスズメ科魚類Neolamprologus meeli(以下メーリーと呼ぶ)の協同繁殖の進化と維持には環境要因が影響するかを調査することを目的とし、SCUBA潜水による野外調査を、アフリカ東部のタンガニイカ湖にて行う予定であった。しかし、本年度は新型コロナウィルスの世界的な感染拡大のため調査は中止となった。本年度は、これまでに集積してきたメーリーに関する調査及び実験データの解析を行った。以下が解析結果の概要である。 昨年度に記録した行動データを解析したところ、繁殖個体でもなく、仔稚魚でもない小型の若齢個体が、繁殖個体の巣でなわばり防衛と巣のメンテナンス(砂出し)を行っていることを確認した。これらの行動は通常、繁殖個体が行う子育て行動とされているため、この若齢個体は子育てを手伝うヘルパーであると結論づけた。また、採集したメーリーのサンプルから親子判定を行い、同じ巣で生活している繁殖オス、繁殖メス、ヘルパーと仔稚魚の血縁関係を明らかにした。この解析から、繁殖個体とヘルパーは親子関係にあり、ヘルパーと仔稚魚はきょうだい関係にあたることがわかったため、本種は血縁ヘルパーを伴う協同繁殖種であると判明した。さらに、巣から分散した若齢個体の多くがメス出会ったことから、メーリーでは雌が分散し、雄は出生した巣に留まる、鳥類型の分散タイプであることが示された。 さらに、巣内にいるヘルパーを除去する実験の解析も行った。ヘルパーが子育ての手伝いをした場合、繁殖個体の子育ての負担はヘルパーがいることで軽減されていると予測される。ヘルパーを除去された繁殖個体は、巣でのなわばり防衛行動を増加させていたため、この予測通りヘルパーは繁殖個体の子育ての負担を軽減していたことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の調査で採集したサンプル、行動データ解析を集中的に行い、メーリーの配偶システム、社会構造といった生態の情報を得ることができ、論文を投稿する段階まで進めることができた。また、他の協同繁殖する魚類や鳥類と同様の分散様式が発見でき、協同繁殖の進化要因を解明するという本研究テーマを前進させることができた。 魚類の協同繁殖は、これまで岩場で生息する魚種に限られており、完全な砂地で繁殖する魚種での協同繁殖の解明は本研究が世界で初めてである。砂地という生息環境では、隠れ家となる巻き貝の殻が枯渇しており、大型捕食魚による高い捕食圧にメーリーはさらされている。メーリーは砂底に直径50 cmほどのクレーター状の巣を形成するが、このような巣を形成するのは本種のみである。クレーター状の巣を砂地に形成することが、子供の出生巣での滞在を可能にし、協同繁殖への進化要因となったのかもしれない。本研究成果は国際雑誌にて投稿しており、現在は査読待ちである。 ヘルパーを除去する実験の解析からは、ヘルパーが実際に子育てへ貢献していることを定量的に示すことができた。さらに、ヘルパーを除去した巣に新たに若齢個体が移入してくることがあった。この個体はヘルパーと同様、巣でなわばり防衛行動をし、巣のメンテナンスもしていたことから新たなヘルパーであると考えられる。また、この移入個体の多くが、移入先の繁殖個体の子供であると推定された。以上より、これらの移入ヘルパーは巣からの分散に失敗したため、親の保護を受けられ、捕食圧が低いと考えられる巣に戻ってきたのだろうと考えられる。 以上の進捗状況から、研究課題に対して進展があると考えられ、概ね順調に研究が進んでいると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、現地から持ち帰ってきた行動データ、サンプルの解析を行い、成果をまとめ、国際雑誌への論文投稿を行っていく。さらに、海外調査が可能となれば、社会構造や協同繁殖の実態が明らかになった本種にて野外操作実験を行い、繁殖場所や隠れ家となる巻貝の殻の数を操作し、繁殖個体やヘルパーの行動、分散に与える影響を調べる実験を行う。本実験を首尾よく運ぶことができれば、生息環境が魚類における協同繁殖を普遍的に駆動する要因であることを示す一助となるだろう。 さらに、本種は生息場所によっては協同繁殖を行わない集団(個体群)が存在することを確認している。採用初年度にはできなかったが、この集団内でも同様の野外観察、サンプリング等を今後行い、本年度の研究成果と比較することで、協同繁殖の進化が環境的要因によるものであることを示すことが期待できる。この他にも、メーリーにて特徴的なきょうだい間の激しい攻撃行動の要因を解明する研究を来年度は行う予定である。本研究は採用最終年度に実施予定だったが、予定を前倒しして既に野外観察は行っている。そのため、観察データの解析を進めるとともに、野外での実験を行うことで、協同繁殖魚のきょうだい間闘争の全容を世界で初めて解明する予定である。なお、メーリーのきょうだい間闘争に関する研究は他大学の研究員と共同で行う予定である。また、メーリーが作る特徴的な巣には底生生物の収集効果があることを解明する実験も既に終了させており、今後解析を行う。
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