2020 Fiscal Year Annual Research Report
回路量子電磁力学を用いた超低損失マイクロ波サーキュレータの開発
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20J13515
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
竹田 悠大河 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 超伝導回路 / マイクロ波サーキュレータ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、回路量子電磁力学に基づくサーキュレータ回路を開発することで、マイクロ波サーキュレータの超低損失化を実現することである。従来のフェライトサーキュレータではチップ上での実装が難しいことから、量子光学実験の阻害要因となる損失が避けられなかった。本研究ではこれを解消するため、マイクロ波集積回路上でのサーキュレータ機能の実現を目指している。今年度は、安定的な外部制御が可能なデバイスの作製に取り組み、素子均一性や回路定数制御性の観点で再現性を持った作製手法を確立することができた。また並行して、サーキュレータ回路の実証実験に向けて希釈冷凍機を用いたマイクロ波測定系を構築した。現有の2ポートネットワークアナライザを用いてサーキュレータ回路の入出力特性を評価するためには、マルチポートSパラメータ測定系を新たに構築する必要があった。同軸RF電磁メカニカルリレーの自動制御により効率的なマルチポート測定を可能にする制御回路を作製した。また、試料作製・測定のための治具の設計作製を行った。磁束バイアス・ゲート電圧の外部制御を可能にする試料保持具・配線アセンブリを作製し、極低温でのマイクロ波測定に進んだ。極低温実験では、まず回路パラメータの同定に取り組んだ。ここではゲート電圧と磁束を掃引し理論的な応答と比較することで、回路パラメータを推定した。この推定値に基づき良好な試料において、適切な外部パラメータ下での分光測定を行い、サーキュレータ動作の実験的観測を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度までの研究で、サーキュレータ動作の実証実験に向けた試料作製の基本技術を習得し1回目の試料を作製したが、Josephson接合の常温抵抗値の不均一性や、目標の抵抗値を実現した試料に不要輻射モードを抑制するためのエアブリッジ構造を作製できない、などの問題があった。今年度はこれらの課題を改善するために、作製工程の見直しや設計変更を行い、新たな試料作製に取り組んだ。その過程で、多数の接合を含む試料を作製しJosephson接合形成条件と抵抗値均一性の関係を統計的に調べた。その結果、接合面積拡大による均一性の向上や、電極の蒸着方向の均一性への影響を評価することができた。一回目の問題点を改善して作製した試料を極低温で測定したところ、サーキュレータ回路の動作制御に不可欠である外部磁束が安定的に印加できないことがわかった。そこでこの不安定性は、磁束安定化のために一般的に用いられる磁束捕捉孔を設置しなかったことによると予想し、グラウンド電極に磁束捕捉孔構造を追加した試料を作製して測定を行った。しかし、この変更によって外部磁束の安定性は改善されないことがわかった。その後、エアブリッジの一部除去によりJosephsonリング回路を取り囲む超伝導ループをなくすことで磁束が安定して印加されることがわかった。外部磁束の安定性とエアブリッジによる不要輻射モード抑制のトレードオフを解消するため、超伝導グラウンド電極を分断し常伝導金属で接続することで、不要輻射モードが発生せず磁束導入が可能なスリット・ブリッジ構造を考案し、安定的に作製する工程を確立した。この構造を追加したサーキュレータ回路試料では、外部磁束を含む制御パラメータがすべて安定的に印加できることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
現状の試料を用いてサーキュレータ動作の実証に向けたJosephsonリング回路の評価測定を続ける。構築した多ポートSパラメータ測定系を用いて、サーキュレータ回路の非相反動作を観測する。現在の主な実験的課題として、サーキュレータ回路を構成する3つの共振器周波数の不均一性とJosephson接合での準粒子トンネリングに起因すると考えられるゲート電圧雑音が挙げられる。前者については、今後共振器を構成する伝送線の形状を改善することで均一性の向上を試みる。後者については、電波吸収材料を用いた低域透過フィルタによって準粒子トンネリングの抑制に取り組む予定である。また、超伝導回路基板の設計、デバイスの作製を繰り返し、超低損失化や大規模集積化に向けた設計・作製手法の確立を目指す。 また、理論面での進展として、Josephsonリング回路をトランズモン回路の拡張と考えることで、強束縛近似によるバンド構造の解釈ができることがわかった。また、サーキュレータの実現法についてリング共振器を用いたモデルによって一般的に説明できることがわかり、これらの解釈に基づいて現在の実験的課題を克服するための新たな動作方式の検討を進める。
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