2020 Fiscal Year Annual Research Report
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20J13688
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
木村 和博 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | ひねり二層グラフェン / 電子ネマティック / 3状態ポッツネマティック / ネマティックー弾性結合 / 超音波吸収係数 |
Outline of Annual Research Achievements |
ひねり二層グラフェンやdoped-Bi2Se3では3回回転対称性を破る電子ネマティック相転移が見つかっている。これは従来より盛んに研究が行われてきた銅酸化物系超伝導や鉄系超伝導とは異なる新しいタイプ電子ネマティック相であり、新しいタイプの電子ネマティックと超伝導、さらにはトポロジカルな電子状態が絡み合う興味深い物質である。これらの物質は共にネマティック超伝導体の候補物質でもあり、常伝導相と超伝導相それ自身や両者の密接な関係性が興味深く様々な角度から多くの研究が行われている。電子ネマティックと非従来型超伝導の関係性を明らかにすることは現在の凝縮系物理において重要な課題である。 近年のひねり二層グラフェンやdoped-Bi2Se3における3状態ポッツネマティック相転移の研究に触発され、我々は臨界的なネマティック揺らぎが低エネルギーのフォノンに及ぼす影響について調べた。本研究では超音波吸収によって3状態ポッツネマティック揺らぎをどのように検出するかを理論的に提案した。揺らぎのガウス理論によってランダウダンピング項が等方的になること、さらにネマティック-弾性結合が等方的になることを示した。この二つの特徴から横波音響フォノンに対する超音波吸収係数が等方的に発散すること、弾性定数が等方的にソフト化することを明らかにした。これは4回回転対称性を破る場合の電子ネマティック相転移の場合にどちらも強い異方性を持っていたこと対照的である。また、現象論的な解析に加え、ハバード模型による平均場近似の計算を行い、相転移の性質が二時転移に近い一時転移であるいわゆる弱い一時転移であること、不純物効果によってよりその性質が顕著になることなどを確認した。以上より、3状態ポッツネマティック秩序の臨界的な揺らぎは超音波吸収係数の等方的な発散によって観測できることを提案する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は昨年に引き続きひねり二層グラフェン等のトポロジカル物質における「電子ネマティック-弾性結合がフォノンの性質に及ぼす影響の解析と実験手法の提案」の課題に取り組んだ。2021年度5月のQLC2021でポスター発表を行い、9月に日本物理学会で口頭発表を行った。以上の研究成果を論文として投稿し、2022年1月にPhysical Review B誌で出版された。 本課題は、スイスETH ZurichのManfred Sigrist氏との共同研究であり、様々な議論を行い無事出版されるに至った。論文の投稿に先立ち、日本物理学会等で口頭発表を行うなど、順調に研究が進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
銅酸化物系超伝導体、鉄系超伝導体の長い研究の歴史の中で重要とされてきた課題の一つに電子ネマティックと非従来型超伝導の関係性を明らかにすること、が挙げられ現代の凝縮系物理において重要な課題である。本研究では、近年急速に研究が進んでいるひねり二層グラフェンやdoped-Bi2Se3を対象に、ネマティック相転移の検出に焦点を絞った研究を行ってきた。今後実験が進み、これらの化合物で起きている現象がよりはっきりしてきた暁には、次のような研究課題が考えられると期待している。 「3状態ポッツネマティック揺らぎが誘起する超伝導状態及び常伝導相における非フェルミ液体状態の理論解析」 ひねり二層グラフェンでは従来の銅酸化物系や鉄系化合物とは異なり、3回の回転対称性を破ること、ディラック分散を有すること、長距離相互作用が有効であること、電子ーフォノン結合が強いと期待されること、などこれまでにない特徴が挙げられる。 例えば3回回転対称性を破る相転移の有効理論の時点で、従来のいわゆるHertz-Millis理論、SCR理論の範疇であるガウス固定点とは異なる固定点を有していることが指摘されている。さらに、ディラック電子系であることもあり、動的質量生成といった通常の個体物理ではなじみのない現象がかかわっている可能性も指摘されている。このような特徴から、ネマティック量子臨界点近傍の物理は、謎が多く、理論解析が重要であることがわかる。さらに、このような基底状態から誘起される超伝導性も興味の対象であり、charge-4e超伝導といった新規超伝導の可能性も含め、可能性を秘めた物質であると期待される。 上記のひねり二層グラフェンのみならず、多くのモアレ物質にも共通する特徴であるため、より多くの化合物で系統的な実験や理論解析を通じて現象の解明が期待でき、個体物理分野全体の進歩につながると期待できる。
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Research Products
(7 results)