2020 Fiscal Year Annual Research Report
身体運動における動作ミスの予兆:その検知と脳状態操作による事前回避
Project/Area Number |
20J13734
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小林 稔季 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 冗長性 / 多自由度 / 両手運動 / 感覚予測誤差 / 誤差修正 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトは熟達した運動スキルであっても時には失敗 (ミス) してしまう。動作ミスを如何に回避するかということは身体運動科学の重要なテーマの一つでありながら、ミス発生のメカニズムは未だ十分に理解されていない。先行研究によれば、熟達した運動を繰り返し行ったとき、成功時と失敗時では、動作直前の身体動作や脳状態が異なる (Aglioti et al., Nat. Neurosci., 2008; Babiloni et al., J. Physiol., 2008; Bediou et al., NeuroImage, 2012)。しかし、動作直前にミスすることがわかったとしても、もはや我々はミスを回避することはできない。本研究では、運動学習動態を調べるための実験系として従来用いられてきた腕到達運動課題を応用し、動作ミスが生起するときの運動学的な予兆因子および脳活動の予兆因子を発見した。 本年度は、実践的な運動課題への将来的な応用を想定し、動作ミスの予兆の普遍性を確かめることを目的として、身体運動科学の分野で広く用いられてきた様々な腕到達運動環境における動作ミス分析を中心に進めてきた。結果、我々のこれまでの研究で発見した動作ミスの前兆として現れる速度低下は必ずしも他の運動環境では表出しないこと、運動環境によってはミス試行前から既に手先の運動軌道の逸脱が大きくなることを明らかにした。また、実験室課題で得られたこれまでの知見が、実際の複雑な身体動作にどれだけ汎用されるかに焦点を当て、身体制御の多自由度に起因する冗長性問題に関して新たな実験を始めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
動作ミスの予兆が運動課題によらず普遍的に現れるかを調べるため、腕到達運動課題を位置依存力場環境 (被験者11名) 及び視覚運動回転環境 (被験者13名) で行った。位置依存力場環境では、初期位置と標的をまっすぐ結ぶ理想軌道から手先が少しでもずれると、そのずれの大きさに比例した強さの負荷が理想軌道の外側に向かって与えられるため、被験者は手先のインピーダンスを増大させることで外乱負荷にロバストな制御戦略を獲得する (Burdet et al., Nature, 2001)。視覚運動回転環境では、初期位置を中心として実際の手先の位置に対して常に+30度回転した位置に視覚フィードバックが表示されるため、被験者は標的方向の-30度の方向に手先を移動させることで誤差をゼロに近づけるよう適応する (Krakauer, Adv. Exp. Med. Biol., 2009)。 本研究では、各環境下で十分な回数の練習を行った後に見られたとりわけ大きな軌道の逸脱を示したミス試行周りの動作データをそれぞれ解析した。結果、いずれも動作ミスに先行する速度低下は見られなかったものの、ミス試行前から既に手先の運動軌道の逸脱が大きくなっていることを発見した。また、位置依存力場中のミス試行には反応時間の遅延と運動速度の低下が、視覚運動回転環境ではミス試行後の運動速度上昇がそれぞれ確認された。これらの結果は、動作ミスの生起及び次試行での修正と、運動速度変化には密接な関係があることを示唆している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、従来の腕到達運動よりも自由度を増やした、両手で道具を操作する冗長運動課題を構築・実施している。この課題は、従来の腕到達運動課題で得られた様々な実験パラダイムを踏襲可能でありながら、より現実世界での身体運動に近いものとなっている。既に行った予備実験では、ほとんどの被験者は課題の冗長性をうまく利用しながら運動コストの小さい動作パターンを獲得していくこと、課題の成否に関与しない冗長次元に与えられた外乱に対しても、その誤差を無意識的に修正してしまうこと、などの結果を確認している。今後の研究の推進方策として、ミス試行周りの冗長次元動作の解析や、冗長次元における無意識的な修正を利用した学習促進方法などを検討する。
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