2020 Fiscal Year Annual Research Report
昆虫における細胞内共生器官の発生および進化機構の解明
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20J13769
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
廣田 敏 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 共生器官 / 細胞内共生 / 甲虫 / 共生細菌 / 胚発生 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの昆虫類は、微生物を体内に取り込み、その能力を利用することが知られている。なかでも高度な共生関係を築いた種では、「菌細胞」という微生物を細胞内に保有するための細胞が分化しており、それらは集合して「菌細胞塊」という共生組織/器官を形成する。菌細胞塊は多様な分類群の昆虫で見られるが、その進化発生学的な起源は一部のカメムシ目の昆虫を除き明らかでない。本研究では、RNAi法による逆遺伝学的解析が容易なコウチュウ目の昆虫(甲虫)を用いて、①菌細胞塊という共生のために特殊化した細胞/組織/器官がどのように形成されるのか、②またその形成過程において、どのような生物間相互作用が見られるのか、という点に着目して、菌細胞塊の形成機構を細胞レベルおよび分子レベルで解明し、その進化的起源への洞察を得ることをめざした。今年度はホソヒラタムシ科甲虫のノコギリヒラタムシOryzaephilus surinamensisを用いて、菌細胞塊の発生過程をFISH法を用いて詳細に調べた。またRNAi法を用いて胚発生におけるパターン形成遺伝子の機能解析を実施した。その結果、hunchback、Kruppel等のRNAiで菌細胞塊の形成が阻害されることを新規に確認した。さらに、ノコギリヒラタムシ共生細菌の機能解析を行ない、その成果は国際共著論文として発表に至った(Kiefer et al. 2021 Commun Biol)また、一生を樹液環境に依存する特殊な甲虫であるヒメトゲムシ科のクロヒメトゲムシNosodendron coenosumおよびケモンヒメトゲムシNosodendron asiaticumが保有する菌細胞共生系および細胞内共生細菌についてデータをまとめ、論文発表に至った(Hirota et al. 2020 Front Microbiol)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度における研究進捗状況は以下の通りである。 ノコギリヒラタムシ胚発生におけるパターン形成遺伝子の機能解析について、hunchback、KruppelのRNAiなど興味深いデータを得ている。また、菌細胞の発生過程の記載について、かなり詳細に実施できた一方で、予定していた菌細胞特異的なマーカー遺伝子の同定や、菌細胞その他各種組織や胚発生段階における遺伝子発現解析について、十分な進展が認められたとは言い難い部分もある。 ヒメトゲムシ菌細胞塊および内部共生細菌の記載については、クロヒメトゲムシおよびケモンヒメトゲムシの菌細胞共生系および細胞内共生細菌についてデータをまとめ、論文発表に至った(Hirota et al. 2020 Front Microbiol)。一方、それらのデータの多くは2019年度までに得られたものであり、新規に取り組むべき共生細菌ゲノム解析や、ヒメトゲムシが摂食する特殊な樹液の成分分析などについては十分な進展が見られたとは言い難いところもあり今後の課題として残されている。 結論として、ある程度の研究の進展はあったが、期待されたレベルには足りない部分も少なからずある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、ノコギリヒラタムシについてRNAseq解析による菌細胞塊マーカー遺伝子の同定を進めていくとともに、in situ ハイブリダゼーションによる発現解析やRNAiを用いた遺伝子機能解析を進めていく。また、ヒメトゲムシについて、共生細菌ゲノム解析に加え、ヒメトゲムシが摂食する特殊な樹液成分の分析を行ない、菌細胞共生系の進化的な起源を解明していく予定である。
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