2020 Fiscal Year Annual Research Report
ヴィクトリア湖産シクリッドの適応放散を促した遺伝的基盤の解明
Project/Area Number |
20J13861
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
中村 遥奈 東京工業大学, 生命理工学院, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
|
Keywords | シクリッド / 集団遺伝学 / ゲノム比較解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヴィクトリア湖産シクリッドは短期間に環境への適応を通して形態や生態において多様な種が爆発的に生じた適応放散を経験した、進化のモデル生物である。本研究課題では、自然選択を受けて集団内に適応的変異を有する対立遺伝子が広まり、固定する過程をゲノムデータから定量的に明らかにすることで、ヴィクトリア湖産シクリッドの種分化・適応に寄与したとされる遺伝子の進化過程を理解することを目的としている。 2020年度は、ヴィクトリア湖産シクリッド3種のゲノム比較解析により単離された適応的変異を有する遺伝子の系統解析を行ない、その適応放散より前に生じた適応的変異(祖先多型)がその爆発的な種分化に重要な遺伝的基盤である可能性を示した。集団史推定を含めたこれらの結果については、国際誌に投稿し、受理された。また、上記のシクリッド1種については、同種内に遺伝的にかけ離れた分集団の存在が示唆されたため、16個体分の全ゲノム配列を新たに決定し、遺伝子の進化過程推定に必要な集団史推定を現在進行中である。さらに、ヴィクトリア湖産シクリッドの適応放散より起源の古い適応的変異を有する遺伝子の一つとして見つかったVI 型コラーゲン遺伝子に関しては、新たに公開されたシクリッドゲノムデータを用いてその詳細な起源を推定し、遺伝子の進化過程の推定を行なう際の知見を得ることができた。これらの結果については複数の国内学会で報告した。 2021年度は、集団史モデルを構築し、遺伝子系図シミュレーションプログラムを用いて、コラーゲン遺伝子や視覚・嗅覚に関連した遺伝子等の複数の遺伝子の進化過程を推定することで、適応的変異に働いた自然選択の強さや働いた時期を明らかにすることを予定している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、ヴィクトリア湖産シクリッド3種のゲノム比較解析により、適応的変異を有する遺伝子を全ゲノム配列から網羅的に単離した。また、さらなるゲノム比較解析により、適応的変異の起源の推定を行ない、ヴィクトリア湖産シクリッドの適応放散より前に生じた変異が種・集団の適応に寄与した可能性を示唆するとともに、その適応的変異(祖先多型)を有する遺伝子セットを提示することができた。集団史推定を含めたこれらの結果については、国際誌に投稿し、既に受理されている。上記のシクリッド1種において同種内に遺伝的にかけ離れた分集団の存在が示唆されたため、16個体分の全ゲノム配列を新たに決定し、その詳しい集団史推定を現在進行中である。さらに、種・集団の適応に寄与した祖先多型を有する遺伝子の一つであるVI 型コラーゲン遺伝子に関しては、さらに種・個体数を増やしたゲノム解析を進めている。これらの結果に関しても複数の国内学会で発表した。以上の理由から、本研究課題においておおむね順調に研究が進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
シミュレーションプログラムを用いた遺伝子の進化過程の推定には、集団史の推定が不可欠である。本年度は前年度完了しなかった集団史の推定を進め、集団史モデルの構築を行なう。続いて、既知の適応的変異を有する遺伝子に関して、その適応的変異が「いつ生じ」、「どのくらいの強さの自然選択」を「いつ受けたか」を棄却サンプリング法により推定することで、遺伝子の進化過程を明らかにする。そして、種の進化史と遺伝子の進化史を比較することで、種の適応に遺伝子が与えた影響について考察する予定である。
|
Research Products
(5 results)