2020 Fiscal Year Annual Research Report
刺激強度の履歴を記録するDAG分子が行動を反転させるメカニズム
Project/Area Number |
20J13918
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
廣木 進吾 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 記憶 / 神経科学 / 線虫 / C.elegans / リン酸化プロテオーム |
Outline of Annual Research Achievements |
線虫は培養プレート上で経験したNaCl(塩)濃度を記憶し、塩濃度勾配中でその濃度に向かって移動する(塩濃度学習)。塩濃度の情報は味覚感覚神経ASER内で、ジアシルグリセロール(DAG)分子によって記憶される。DAGはPKCの一種であるPKC-1の活性を変化させることで、高濃度・低濃度側のどちらに移動するかを決定する。本研究は、DAG・PKC-1がASERにおいてどのような分子的イベントを引き起こし、神経での情報処理を変化させるかを解明することを目的とする。 まず、順遺伝学的スクリーニングで獲得した変異体の原因変異を特定した。その結果、思いがけずPKC-1の上流因子であるGqの活性化がpkc-1機能喪失型変異体の表現型を抑圧することが明らかとなった。その解析を通じ、PKC-1と近縁なPKCであるTPA-1の塩走性行動における寄与を新たに見出した。その機能解析から、DAGによる記憶システムのロバストネスを明らかにした。 さらに、PKC-1の下流因子探索のためプロテオーム解析を行ったが、従来法ではPKC-1の下流と考えられる分子は発見できなかった。そこで、組織特異的タンパク質濃縮技術を用いた神経特異的リン酸化プロテオーム解析、及び変異体における検証を行うことで、PKC-1の下流と思われる分子を特定した。これは伝達に必要なシナプスタンパク質であり、そのリン酸化不能型置換変異体は塩走性やシナプス伝達にpkc-1変異体様の異常を示した。 また、非拘束式マイクロ流路デバイスを用いたCa2+イメージング実験により、pkc-1変異体や上記遺伝子の変異体では、特定の介在神経の塩応答が反転することが明らかとなった。線虫の神経細胞の特性を踏まえ、pkc-1変異体における神経伝達変化が受容体特性に応じてシナプス反転を引き起こすモデルを考案した。このモデルを実証し、その実体となる受容体を特定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
PKC-1の下流分子決定のために行った抑圧変異体スクリーニングから予想外の結果を得るこたうえで、行動に関わる新規メカニズムを解明し、論文を投稿することができた。また、下流分子決定はリン酸化プロテオームの方面から行うことができ、当初の計画も問題なく達成したうえで、重要性の高い分子に行き着くことができた。また、当初計画になかったシナプス反転機構の解明とそのメカニズムに対して極めて新規性の高いモデルを提案することができたほか、それを高い精度で解明することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、投稿中の論文について査読コメントが届き次第、それに対応する追加実験を行う。また、電気生理学的実験により、走性反転モデルを検証する。さらに、これまでの研究をまとめて論文とし、国際誌に投稿する。
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