2020 Fiscal Year Annual Research Report
窒素-窒素三重結合の切断反応を利用した触媒的含窒素有機化合物合成反応の開発
Project/Area Number |
20J13973
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
板橋 隆行 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
|
Keywords | 窒素固定 / モリブデン / ニトリド錯体 / クロロ炭酸エステル / ヨウ化サマリウム / シアン酸イオン / ピンサー型配位子 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、常温・常圧という温和な条件下における触媒的窒素固定反応が活発に研究されているが、生成物はアンモニアに限られており、遷移金属錯体を用いて温和な条件下で含窒素有機化合物を触媒的に合成した例は報告されていない。私が所属する研究室では、PNP型ピンサー配位子を有するモリブデン錯体が、温和な条件下でのアンモニア合成触媒として働くことを見出しており、この反応系中では窒素分子の切断反応が進行し、鍵中間体であるニトリド錯体を生成することも見出した。そこで、窒素分子の切断反応によって生成したニトリド錯体を用いてC-N結合生成反応及び、含窒素有機化合物への変換反応を検討した。 令和2年度は、C-N結合生成反応に用いる炭素求電子剤としてクロロ炭酸エステルに着目した。モリブデンニトリド錯体とクロロ炭酸フェニルを反応させたところ、カーバメート錯体が得られ、カーバメート錯体に対し還元剤として1当量のデカメチルコバルトセンを加えたところ、シアナート錯体が得られた。これらの反応により、窒素分子由来のニトリド錯体を含窒素化合物であるシアン酸イオンへと変換することに成功した。また、カーバメート錯体を窒素雰囲気下5当量のヨウ化サマリウム(II)を用いて還元したところ、ニトリド錯体とシアン酸イオンがそれぞれ収率58%、66%で得られた。この結果は、錯体中心からシアン酸イオンの解離と窒素分子の切断反応によるニトリド錯体の生成を1ステップで達成したことを意味している。 上述したニトリド錯体のアシル化及び還元反応を組み合わせることにより、窒素分子を原料としたシアン酸イオン合成反応において、2段階での合成サイクルを達成した。2段階の合成サイクルは、これまでに報告されている窒素分子を原料とした含窒素化合物合成反応の合成サイクルの中で、最もステップ数の少ないものであった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
令和2年度においてはクロロ炭酸エステルを炭素求電子剤、ヨウ化サマリウムを還元剤として利用する組み合わせによる、含窒素有機化合物であるシアン酸イオンの擬触媒的合成反応の開発に成功した。この擬触媒反応は2ステップでの反応であり、窒素分子を原料とした擬触媒反応の中で最小の反応ステップ数を達成した。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年度に得られたクロロ炭酸エステルを炭素求電子剤、ヨウ化サマリウムを還元剤として利用する組み合わせがシアン酸イオン合成の擬触媒反応を達成したという知見を踏まえ、含窒素有機化合物の触媒的シアナート合成反応の開発を行う。また、別の含窒素有機化合物としてニトリルを生成物とした触媒反応の検討を行う。
|