2020 Fiscal Year Annual Research Report
非筋型ミオシンの骨格筋における機能解析と筋萎縮の病態におよぼす影響
Project/Area Number |
20J14059
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
濱口 裕貴 東京都立大学, 大学院人間健康科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
|
Keywords | 骨格筋 / ミオシン / 収縮力 |
Outline of Annual Research Achievements |
骨格筋におけるミオシンは「骨格筋型」ミオシンのことを指し、筋収縮を制御するものとして、これまで多くの研究で注目されてきた。実は、骨格筋には骨格筋型だけでなく、「非筋型」ミオシン IIA、IIB、IICの3タイプも発現している。しかし、骨格筋における非筋型ミオシンの役割は明らかになっていない。予備検証において、マウスの骨格筋に発現する非筋型ミオシンは老化による筋萎縮で増加し、不活動を模倣した筋萎縮で減少したことから、筋量や筋収縮力との関連性が強く示唆された。そこで、本研究では骨格筋細胞の分化・成熟とともに発現が増加する非筋型ミオシンIICに着目し、骨格筋における非筋型ミオシンの生理学的役割と、筋萎縮の病態に与える影響を明らかにすることを目的としている。 2020年度は非筋型ミオシンの減少が筋量や筋収縮力、筋細胞の形状に与える影響を検証するため、Crisper-Cas9システムを用いて非筋型ミオシンIICの遺伝子を全身で欠損させたマウスを作製した。作製したマウスは、非筋型ミオシンIICの働きに必須な領域が欠損していることを確認できた。現在、作製したマウスの骨格筋組織および初代培養筋細胞の筋量や収縮力、形状を評価する準備を進めている。 また、非筋型ミオシンの増加が骨格筋に与える影響を検証するため、非筋型ミオシンIICを一過性に過剰発現させたマウス骨格筋組織および培養筋細胞の作製を試みた。非筋型ミオシンIICの発現ベクターをマウス下肢にエレクトロポレーション法で導入したが、骨格筋組織での一過性の発現が確認できなかった。一方、発現ベクターをリポフェクション法で導入した培養筋細胞は、過剰発現が認められたものの、コントロールおよび過剰発現細胞株どちらも正常に分化せず、収縮力や形状の検証に使用することができなかった。今後は別の手法を用いて、引き続き過剰発現細胞の作製を行う予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、非筋型ミオシンの減少が骨格筋の量や収縮力、筋細胞の形状に影響を与えるのか検証するため、Crisper-Cas9システムを用いて非筋型ミオシンIICの遺伝子を全身で欠損させたマウスを作製した。まず、マウス受精卵にCas9タンパク質とgRNAをエレクトロポレーション法で導入し、ゲノムから非筋型ミオシンIICの働きに必須なExon2からExon8の領域を欠損させた。この受精卵を代理母マウスに移植し、産まれてきた仔マウスのDNAを抽出してシークエンス解析を行ったところ、標的領域が欠損していることを確認できた。 これと並行して、非筋型ミオシンの増加が骨格筋に与える影響を検証するため、非筋型ミオシンIICを一過性に過剰発現させたマウス骨格筋組織および培養筋細胞の作製を試みた。まず、マウス下肢の片脚に非筋型ミオシンIICの発現ベクターを、もう一方の脚には空ベクターをエレクトロポレーション法で導入した。しかし、骨格筋組織で非筋型ミオシンIICの過剰発現が確認できなかった。これは、筋細胞へのベクターの導入効率が低かったためと考えられた。そこで、ベクターを発現している細胞のみを選抜できる培養筋細胞株のC2C12細胞に非筋型ミオシンIICの発現ベクターまたは空ベクターをリポフェクション法で導入した。導入した細胞を1細胞ずつ分け、クローン集団を作製したところ、非筋型ミオシンIICを過剰発現したクローン株が得られた。しかし、作製したコントロールおよび過剰発現細胞株どちらも正常に分化せず、収縮力および形状の検証に使用することができなかった。これは、ベクター導入時に使用する試薬が細胞毒性を有しているためと示唆された。2021年度は引き続き、別の手法で過剰発現細胞の作製を行う予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、非筋型ミオシンを欠損もしくは過剰発現させた骨格筋の組織または培養細胞の筋量や収縮力、細胞の形状を評価する。非筋型ミオシンの欠損が骨格筋に与える影響の検証では、2020年度に作製した非筋型ミオシンIICの遺伝子欠損マウスを使用する。遺伝子欠損マウスから速筋タイプの代表として長趾伸筋を、遅筋タイプの代表としてヒラメ筋を摘出し、筋収縮力は骨格筋の収縮力測定装置で、筋細胞の形状は骨格筋組織の凍結切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色および免疫蛍光染色することで評価する。同様に、遺伝子欠損マウスから骨格筋幹細胞であるサテライト細胞を単離し、作製した初代培養筋細胞の収縮力を培養細胞の収縮力測定系で、形状を免疫蛍光染色で評価する。 さらに、非筋型ミオシンの増加が骨格筋に与える影響を検証する。そのために、細胞への導入効率が高く、導入時に細胞毒性が疑われる試薬を必要としないウイルスベクターを用いて、非筋型ミオシンIICを一過性に過剰発現させた培養筋細胞の作製を試みる。過剰発現細胞が作製できたら、収縮力および形状を評価する。 非筋型ミオシンの欠損もしくは増加によって筋量や筋収縮力、細胞の形状に変化が生じた場合、そのメカニズムを明らかにする。また、これらの変化が確認されなかった場合は、これまで明らかとなっていない骨格筋における非筋型ミオシンの役割について探索する。非筋型ミオシンを欠損させた骨格筋組織もしくは過剰発現させた細胞の遺伝子発現をマイクロアレイ法で網羅的に評価し、発現量が変動した遺伝子の機能やシグナル伝達経路などを解析する。解析結果をもとに、骨格筋における非筋型ミオシンの分子基盤を明らかにし、骨格筋の機能や筋萎縮の病態との関連性を検討する。
|