2020 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀サンクトペテルブルクのバレエ―ディヴェルティスマンの発展
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20J14145
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
大林 貴子 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | バレエ / ディヴェルティスマン / ロシア・バレエ / 舞踊史 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、19世紀のロシア・バレエ発展の中心地、サンクトペテルブルク帝室劇場で上演されていたバレエと独立したディヴェルティスマン公演に関して調査を続けた。 まずは、19世紀サンクトペテルブルク帝室劇場で上演されていたバレエに関する演目(バレエ、オペラ、そして独立したディヴェルティスマン公演)の上演記録すべてを、19世紀全体の上演カレンダーを作るようにして蓄積し、整理した。これは19世紀ロシア・バレエの発展と、本研究課題の中心テーマである独立したディヴェルティスマン公演との関連について分析し、考察するための基礎となる重要なデータベースである。 このデータベースを活用し、オペラやバレエ、独立したディヴェルティスマン公演それぞれの上演数の割合や変化、内容の変遷を整理することができた。上演状況の数値的データに関しては2020年12月に研究会で口頭発表を行った。 重要なのは、独立したディヴェルティスマン公演はロシア独自のものであり、上演数の推移はあるものの、ロシアでは19世紀を通して上演され続けていたことを明らかにできたことである。また、19世紀ロシア・バレエの発展はバレエだけではなく、独立したディヴェルティスマン公演やオペラに含まれるバレエシーンも含めて考察する必要があるという重要な視座が得られた。2020年度末には、独立したディヴェルティスマン公演の内容とバレエ作品の関連について、特にバレエ作品の改訂や「祝祭性」に関して考察し、論文にまとめた。なお、2020年8月に予定していたサンクトペテルブルクでの調査は新型コロナウイルス感染症の影響によって行うことができなかったため、2021年8月に延期して実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、研究課題の遂行のための基礎となるデータベース(19世紀サンクトペテルブルク帝室劇場で上演されていたバレエ、オペラ、そして独立したディヴェルティスマン公演の演目の記録)を作成することができた。データベース作成にあたっては、2021年8月にサンクトペテルブルクで調査を行い、主にサンクトペテルブルク帝室劇場の公演情報ポスター(ロシア国立図書館所蔵)を閲覧して得た情報を基にした(この調査は当初は2020年8月に予定していたが、新型コロナウイルス感染症の影響によって2021年8月に延期、実施した)。 新型コロナウイルス感染症の影響によって調査手法や成果発表の時期や場に関して多少変更をせざるを得なかったのは事実である。例えば、渡航先のサンクトペテルブルクの資料館では、新型コロナウイルス感染症対策の一環として資料閲覧の制限があったため、目標としていた期間すべての公演情報ポスターを閲覧することはできなかった。しかし、ロシア国立図書館の充実したオンラインアーカイヴのおかげで、調査対象である19世紀の新聞記事などの資料を国内にいながらも閲覧することができた。公演情報ポスターや19世紀当時の新聞記事は老朽化して不鮮明な箇所があり、しかも膨大なため判読は困難であったが、データベースの作成、補強に大いに役に立てることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
バレエは18世紀にオペラから独立して以来、演劇的な要素と舞踊的な要素を持つこととなった。この二つの要素は19世紀のロシア・バレエ史の発展にも大きくかかわっている問題である。本研究課題遂行の中心軸にあるディヴェルティスマンはバレエの舞踊的な要素を担っているのだが、しばしば「単なる芸」などと指摘されてきた事実がある。しかしながら、19世紀後半以降にはディヴェルティスマンを含むバレエ作品(『眠れる森の美女』や『くるみ割り人形』、『白鳥の湖』などのクラシック・バレエ)が数多く作られるようになったことを踏まえると、独立したディヴェルティスマン公演の存在や意義を十分に考慮して19世紀ロシア・バレエ史を再考する必要がある。また、独立したディヴェルティスマン公演がバレエの中に取り込まれていった可能性も十分に考えられる。よって、今後は19世紀のロシア・バレエ史の発展を支えた振付家たちの舞踊観や振付手法の変遷を調査したい。この際、バレエの演劇的な要素と舞踊的な要素に関して19世紀当時の舞踊批評をまとめると同時に、従来の舞踊史研究者の考察と比較検討していく予定である。
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