2020 Fiscal Year Annual Research Report
不連続な間隙構造をもつ土塊土壌における特異な水分動態を考慮した水分分布予測
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20J14362
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松本 宜大 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 土塊土壌 / 風 / ガス輸送 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、土塊を多く含むために、下方からの液状水供給が制限される一方で、水蒸気移動が促進され、乾燥が進みやすいと考えられる粘土質な水田転換畑の播種床において、水分分布を予測するモデルを作成し、乾燥によるダイズの出芽率の低下を回避可能な播種深度を提示することを目的としている。本年度は以下の2つの研究を行った。 1.多様な風況下における土塊土壌の水蒸気輸送係数の定量的解明 土塊土壌において、風で水蒸気輸送が促進されるかどうかを明らかにするため、現場圃場において多様な風況下でのガス拡散実験を行った。実験には、転換初年目で大土塊の多い転換畑と、転換から複数年が経過し小土塊の多い転換畑で採取した土塊土壌、そして土塊を含まない土壌として三河珪砂を用いた。その結果、三河珪砂では、風によるガス輸送の促進効果は認められなかったが、土塊土壌では、風によってガス輸送が促進されることが明らかになった。特に、大土塊の多い土壌では、小土塊の多い土壌よりもガス輸送が促進された。得られたガス濃度の経時変化に対し、ガス拡散方程式をあてはめてガス(水蒸気)輸送係数を求めることで、風速および土塊径とガス(水蒸気)輸送係数の関係を得た。 2.土塊土壌における水分分布予測モデルのプロトタイプの作成 土塊土壌における蒸発に伴う水分分布予測モデルのプロトタイプを作成した。本プロトタイプは、土壌中の液状水移動を表すRichards式に、水蒸気移動を組み込んだモデルとし、Excel VBAによって作成した。作成したプロトタイプは、土塊のない土壌中の蒸発に伴う水分移動を、水収支の誤差なく計算できた。このプロトタイプに対して、本年の測定で得られた土塊土壌における風が吹いているときの水蒸気輸送係数と、次年度に測定予定の土塊土壌の不飽和透水係数を組み込むことで、土塊土壌における蒸発に伴う水分分布の経時変化が計算可能になることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の実施を計画していた、多様な風況下における土塊土壌の水蒸気輸送係数の定量的解明と、土塊土壌における水分分布予測モデルのプロトタイプの作成を行い、良好な結果を得ることができた。そのため、現在まで研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はまず、径の異なる土塊土壌を用いた蒸発実験により、土塊径と不飽和透水係数の関係を明らかにする。径の異なる土塊土壌は、新潟県にある、水田からの転換初年目で大土塊の多い転換畑と、転換から複数年が経過し小土塊の多い転換畑で採取する。蒸発実験は、サンプリングしたカラムの下端に、砂を充填し地下水面を設けたカラムを接続したうえで、気温および湿度の制御された人工気象実験室で、日射を遮って、定常状態に達するまで行う。そして、定常状態に達した時の土塊土壌の水分分布と蒸発量から、土塊土壌の不飽和透水係数を求める。続いて、得られた土塊土壌の不飽和透水係数と、本年度に測定した土塊土壌の水蒸気輸送係数を、前年度に作成したプロトタイプに組み込むことで、土塊土壌における、蒸発に伴う水分分布の経時変化を予測するモデルを作成する。そして、本研究の開始前に測定した、砕土不良な粘土質転換畑における、ダイズ播種期の水分分布および蒸発量の経時変化を表すデータを用いて、作成したモデルの妥当性を検証する。検証の結果が良好であれば、ダイズ播種直後の粘土質転換畑において想定される、複数の砕土および気象パターンに対し、作成したモデルを用いて作土層の水分分布の経時変化を計算し、過乾燥の影響を受けないと考えられるダイズ播種深度の提示を行う。
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