2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J14428
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
永井 恒平 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 光物性 / 磁性 |
Outline of Annual Research Achievements |
ファンデルワールス層状物質の磁性体として近年注目を集めているCrX3(X=I,Br,Cl)を対象とし、原子層数層程度の薄膜試料を剥離することに成功した。またCrBr3については空気下での試料の劣化を防ぐために、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内での作製を行った。CrBr3やCrI3などは研究室内で過去に基礎光学測定および磁性の評価をした実績があるが、CrCl3についてはまだ行われていなかったので、発光やラマン散乱の手法を評価することにより試料が先行研究で述べられているような光学特性を示していることを確認した。また、光学系の改良および磁化検出感度の評価を行った。研究室ですでに構築していた磁化測定用の光学系を改良し、近赤外光(波長1300nm)ポンプ、近赤外光(波長800nm)プローブの実験を行う光学系を構築した。ポンププローブ測定に必要な時間原点をBBO結晶からの和周波発生が起こる遅延時間を調べることで確認した。また、対象試料に対しプローブ光の偏光回転を1/4波長板、ウォーラストンプリズム、バランス検出器を用いて計測し、超高速磁化変調の大きさを見積もった。ノイズレベルを詳細に調べた結果、磁化変調がおよそ10-5 rad程度であることを確認した。先行研究で2層CrI3で観測されたマグノン振動を検出可能にするために必要な検出感度がおよそ10-5 から 10-6 radであることから、さらなる検出感度の向上が望ましい。また高強度赤外パルス光の下での物質の応答を調べるため、磁性体薄膜試料からの高次高調波発生を行い、スペクトルを検出した。また、本研究の準備段階として高強度光での物質応答を調べるための高次高調波発生に類似の現象について研究をまとめる必要があった。その研究について本年度1報の論文を投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は新型コロナウイルスによる影響で研究室における実験が遅れた関係もあり、期待以上の成果はえることができなかったが、概ね順調には進展している。始めの段階として必要な実験試料の準備については、層状結晶を原子層レベルまでテープを用いて剥離していく作業が必要で時間と技術が必要な部分であるが、今回用いたものと異なる類似の物質について作製した経験があったため、試行錯誤が比較的短く試料の作製が可能になった。しかし、作製難易度は試料ごとに予想以上に異なるので現在、それぞれの試料ごとの手法の最適化を目指している。また、実験に必要な光学系の整備及び評価も進めている。実験において用いる超短パルスレーザーの扱いについては、修士課程から学んできた技術を活かして進めることができている。一方で今回の申請課題で初めて扱う新しい実験技術も数多くあるため、研究室内での議論を重ねるなどして着実に実験手法の習得も行ってきた。一方で、対象試料に対する平衡状態における磁化測定および超高速な磁化測定に関しては1度ごとの測定に長い時間を必要とするため、そこは今後積極的に進めていく必要がある。並行して高強度赤外パルス光下での試料の応答の評価も着実に進んでいる。これまでの知見を組み合わせていくことで今後の実験の進捗が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
おおむね、計画通りに今後の研究を推進していく。昨年度は、磁性体薄膜試料の準備および評価、赤外パルス光の発生とスペクトルおよび強度の評価、ポンププローブ用実験光学系の改良および磁化検出感度の評価、高強度赤外パルス光による磁性体薄膜試料からの高次高調波発生を行った。本年度は昨年度に引き続き磁性体薄膜材料の作成および低温での基礎的な磁化測定を行う。評価が終了したら高強度近赤外光を当てた際のカー回転をポンププローブ法により検出する。近赤外光の偏光はその波長に対応した波長板および偏光子により制御する。さらにこれまで構築した光学系に加え、中赤外光を試料に照射するための光学系を整備する。その上で円偏光中赤外光の照射下でもポンプスローブ測定を行い、磁化ダイナミクスを明らかにする。実験においては磁化変化の励起光や検出光に対する強度依存性、偏光や外部磁場、温度に対する依存性を確認することで熱的な効果による磁化変化でないことを示す。また高次高調波発生の磁場や温度に対する変化を同時に検出することによって赤外パルス光照射下でのコヒーレントな電子およびスピンダイナミクスを解釈する。またスピン系の有効モデルにおいて光磁場との相互作用をシミュレーションすることで実験結果に対する理論の妥当性を評価する。
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Research Products
(5 results)