2020 Fiscal Year Annual Research Report
二成分冷却原子気体における量子渦のダイナミクスと量子乱流の示す統計則
Project/Area Number |
20J14459
|
Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
韓 俊植 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
|
Keywords | 冷却原子気体 / ボース・アインシュタイン凝縮体 / 超流動 / 量子渦 / 乱流 |
Outline of Annual Research Achievements |
冷却原子気体Bose-Einstein凝縮体は超流動性を示し、量子渦を形成する量子流体である。また、実験における高い制御性と多成分系が実現可能であり、乱流研究の良いモデルとして、近年広く研究されている。量子乱流に関する先行研究の多くは一成分系で行われており、多成分量子乱流の研究は十分に行われているとは言えない。 本研究ではまず、二次元二成分系を対象として研究している。二成分系では、同成分間相互作用に加えて、一成分系には無かった特有のパラメータとして、異成分間相互作用がある。これらの相互作用は本来原子間に働くものであるが、渦間の相互作用の原因にもなる。そこで、二成分量子乱流の研究においては、その構成要素である量子渦や渦対のダイナミクスが、同成分および異成分間相互作用にどのように依存するかを調べるという方法が考えられる。 渦対とはそれぞれ逆の循環を持つ渦のペアであり、一成分系ではそのままでは消滅しない。一方、当該年度の研究において、二成分系では強い異成分間相互作用に起因する両成分間でのエネルギー交換により、渦対が消滅し得ることを示した。また、この渦対の消滅をきっかけとして、両成分の間で交互に渦対が生成され消滅する、再帰現象という現象を発見した。この現象は、それまで知られていた渦のダイナミクスとは大きく異なるため、それ自体が非常に興味深い現象である。加えて、量子乱流を構成する渦対の消滅に関わる現象であるため、二成分量子乱流の発展や減衰にも深く関わる現象だと考えられ、この分野の研究のさらなる発展においても重要であると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では主に1.先行研究の「渦の相分離」現象をより深く理解する為の、非対称な二成分トラップ系での計算、2.レーザーポテンシャル駆動による量子渦の形成とそのダイナミクスに関する計算の、二成分系への拡張および計算準備、3.二成分系での量子渦の対消滅の計算、の3つを計画していた。 1.に関しては、採用内定となった昨年度の後半から初めており、令和1年度3月の日本物理学会ではこの研究に関する先行的な報告も行っている。しかし、この系における量子渦のダイナミクスのパラメータ依存性は、想定していたよりもはるかに複雑であり、「渦の相分離」現象の非対称なパラメータへの依存性を体系的にまとめることは困難であると判断し、学術誌への投稿は断念した。 次に、2.に関しては、計算プログラムを二成分系に拡張し、渦の形成方法をレーザーポテンシャルの駆動から、静止したレーザーポテンシャルに流れを印加する方法に変更した。また、計算精度のチェックなどのテスト的な計算は終了している。現在は実際に複数のパラメータの値を変えながら計算していき、その結果の確認と今後の解析方法の検討を行なっている段階である。 最後に3.に関しては、二成分系にでは強い異成分間相互作用によって渦の対消滅が起こることに加え、二成分系特有の現象である再帰現象を発見した。これらの結果は令和2年度3月の日本物理学会で口頭発表を行い、論文をPhysical Review Aに投稿している。論文は現在査読中であるが、レフェリーからの返答は受理、出版に向けて前向きなものである。
|
Strategy for Future Research Activity |
あ今後の研究方針としては、まず、レーザーポテンシャルを用いた二成分系での量子渦の形成とそのダイナミクスに関する研究を進めていく。この研究においては主に、二成分量子乱流が広い長さスケールにおいて示す、エネルギースペクトルなどの統計則に関して調べることを目標とする。そのため大規模な系で数値計算を行う。また、相互作用に依存するそれぞれの渦のダイナミクスが、この統計則に与える影響に着目して計算を行う。 さらに、両成分の対称性を崩して同様の計算を行う。これは、特に両成分間で同成分間相互作用の強さを変えることで、渦の形成やダイナミクス、および従う統計則への影響を調べるためである。本年度の計算では、より大規模な系で多数の渦のダイナミクスを統計的に調べることで、先行研究では体系的に調べられなかった非対称性による渦のダイナミクスに関して明らかにすることを目指す。 申請時点では、異成分間相互作用に依存した二成分系特有の渦のダイナミクスを、三次元系でも調べることも計画していた。しかし、統計則を調べるためには大規模な系での計算が必要であり、三次元系への拡張は当初想定していた以上に計算にかかるコストは大きく、計算機の性能や計算時間から三次元系の体系的な研究は難しいと考えられる。そこで本研究では、二次元系での計算に焦点を当てて行うことにする。
|