2020 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of afferent vagus nerve function for memory consolidation by optogenetic vagus nerve manipulation
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20J14463
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小此木 闘也 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 迷走神経 / 空間記憶 / 海馬 / オプトジェネティクス / 脳―末梢連関 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、求心性迷走神経が空間記憶の固定化に与える影響の解明を目的としている。これまで、迷走神経の生理機能については、心臓や肺などの末梢臓器の生理活動の調節に加え、不安やうつといった情動への関連が知られてきた。しかし、自由行動中に動物の迷走神経活動を直接に記録した知見はなく、これらはすべて麻酔下の記録や神経を電気刺激する迷走神経刺激法 (VNS)、迷走神経の外科的切除によって間接的に検討されてきた結果であった。その中で、申請者は自由行動中のラットから迷走神経活動を記録する手法を開発し、新奇環境探索時に迷走神経は高い活動を示すことを示した。環境の新奇性は記憶や学習に重要な要素として知られており、実際に新奇環境を探索した後に空間記憶課題を行うと課題成績が向上することが知られている。さらに迷走神経と空間記憶の関連を示す研究として、求心性迷走神経を除去すると空間記憶の固定化が阻害されることが知られている。以上のことから、迷走神経が活動することによって、空間記憶の固定化が促進されると仮説を立てた。そこで申請者は、仮説を証明するため、空間記憶課題前後の様々なタイミングで、特に脳へ向かう神経線維である求心性迷走神経を、光遺伝学的手法を用いて選択的に活性化することで、記憶成績を向上させるかを検討する。さらに、生理条件において迷走神経が海馬や青斑核といった空間記憶に関わる領域との活動相関を示すため、自由行動中のマウスから迷走神経活動を記録する方法についても検討を行う。現在、麻酔下で迷走神経活動の光刺激、および自由行動中のマウスから迷走神経活動を記録することにも成功している。今後は刺激系を自由行動下に応用するとともに、空間記憶課題中に迷走神経活動と脳活動の相関関係を検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、求心性迷走神経が空間記憶の固定化に与えることを示すことにある。目的達成のためには、求心性迷走神経の選択的な活性化を行う刺激法を確立し、自由行動中の動物の脳波記録系と統合する必要がある。本年度は特に前者の刺激法を確立するため、麻酔下における求心性迷走神経刺激法を検討した。具体的には、刺激した際に生じる活動電位(集合電位)が求心性に伝達されているかを調べるため、4極のカフ型電極を開発した。そして、求心性迷走神経に光感受性タンパク質チャネルロドプシン2 (ChR2) を発現するトランスジェニックマウス (vGluT2-ChR2) を用い、心房光刺激時の頸部迷走神経束の集合電位を記録した。結果、光によって発生した集合電位は、4極の各電極を尾側から吻側へ、求心性に伝達されていた。このとき、刺激によるアーチファクトや副次的な電位変化を発生しなかったことから、刺激に成功したと判断した。また、自由行動中のマウスから迷走神経活動を記録する手法を確立した。本手法に関しては他に未だ例がなく、世界初の成果である。本年度はこの記録系を、高架式十字迷路(不安様行動の推定に用いる)を探索するマウスに応用し、前頭前皮質や扁桃体といった脳領域の脳波(局所場電位)とともに記録した。その結果、脳波のガンマ帯(30-60 Hz)と迷走神経活動は正の相関関係にあった。先行研究から、扁桃体で見られるガンマ帯の活動は、恐怖条件づけの消去学習において高まることが知られている。このことから、ガンマ帯は恐怖と同様に不安においても嫌悪的な情動を弱める働きを持つと考えられる。得られた結果から、迷走神経がガンマ帯の活動を増強することで、抗不安作用を示す可能性が示された。以上の成果は、今後、空間記憶課題に刺激法を応用する上で、自由行動中に迷走神経を活性化した際の応答を確認するために利用する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に確立した2つの技術を発展させることで、研究課題の解決を行う。具体的には、① 求心性迷走神経を刺激する手法を麻酔下から自由行動下へと発展させ、また、② 自由行動下マウスから迷走神経活動を記録する手法を空間記憶課題中にも適用する。①について、現在、迷走神経による光応答を確認する際、vGluT2-ChR2マウスの心房に光ファイバーを刺入しているが、自由行動下で応用することはできない。自由行動下で安定的に光ファイバーを埋め込むことができる箇所は、求心性迷走神経終末が存在する延髄孤束核に限られる。しかし、現行のバイジェニックマウスでは、延髄孤束核近傍に存在する他の領域の神経細胞にもChR2が発現しているため、光を当てた際にこれらを誤って活動させてしまう。そこで、空間解像度の低さを補うため、アデノ随伴ウイルス (AAV) を用いた手法を検討している。この方法では、Creリコンビナーゼ依存的にChR2を発現するAAVをvGluT2-Creマウスの求心性迷走神経の細胞体であるNodose ganglionに投与することで、求心性迷走神経に選択的にChR2を発現させることができる。その後、延髄孤束核に光ファイバーを刺入して光刺激を行う予定である。また、②では迷走神経活動の記録法を用いて空間記憶課題中に海馬や青斑核の脳波を記録することで、迷走神経活動と記憶に関わる脳領域との活動相関を調べる。特に海馬においては、記憶課題後の睡眠時に発生するリップル波と呼ばれる脳波が記憶の固定化に重要である。本記録法を用いて、リップル波発生時の迷走神経活動を記録し、迷走神経活動との相関を調べる。さらに、光刺激をリップル波の発生タイミングに合わせて行うことで、記憶の固定化を促進できると考える。当研究室において、リップル波の発生に合わせて刺激を行うフィードバック系はすでに確立していることから、これを応用する。
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Research Products
(3 results)