2020 Fiscal Year Annual Research Report
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20J14512
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
池田 來未 お茶の水女子大学, 人間文化創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 複合動詞 / 文法変化 / 文法史 |
Outline of Annual Research Achievements |
現代語では「読み通す」「耐え抜く」など〈完遂〉を表す複合動詞が複数存在するが、それぞれ表す意味や前項(「読み通す」の「読む」など)にきやすい動詞に違いがある。 本研究の目的は、「疲れ果てる」「書き終える」といった〈完遂〉を表す複合動詞の用法が歴史的にどのような過程をへて変化していったのかを複合動詞前項に注目しつつ調査し、さらにこれらがどのような競合関係をへて現代の使い分けに至ったのかを明らかにすることである。この目的を達成するために、①個別の複合動詞の歴史的変化の調査、②複合動詞相互の比較という大きく分けて2つの手順で調査を行う。 2020年度は①の個別的調査と②の試験的な検討を行った。 本年度は、〈完遂〉を表す複合動詞「~ハツ(ハテル)」(「絶え果てる」、「困り果てる」など)、~オエル」(「読み終える」「話し終える」など)の上代から近代の用例を対象として、個別の複合動詞の歴史的な用法変化の調査(①)を中心に行った。 以前示したものと調査対象語彙が異なっているのは、動詞の後ろに来る後項(ハテル、オエル)自体が終了の意味を表すという点で「~ハツ」と「~オエル」が類似していること、「終(は)てる」と読む例があることなどから、より共通点の多いこの2つの複合動詞を調査したほうが良いと判断したためである。 特に「~ハツ」についてはこの複合動詞の歴史的な用法変化の過程とその要因を調査し、まとめたものを2020年度日本語学会秋季大会で発表した。発表の際に得た意見をふまえて、調査対象や分析方法を改良しつつ「~ハツ」の再検討をし、その内容をまとめているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は「~ハツ(ハテル)」「~ハタス」「~オエル」を調査対象とした。 まず複合動詞や文法変化の先行研究を参照し、上記の複合動詞の上代から近代の用例採集を行った(必要に応じて、今後用例の再調査及び調査資料の追加を行う可能性がある)。さらに集めた用例をもとに、先行研究を参考に複合動詞前項に着目して用例を分類し、複合動詞の歴史的な用法変化の過程及び要因について検討した。 調査の結果、「~ハツ(ハテル)」は「消え果てる」のような変化の終了を表す用法は上代から近代まで一貫して存在するが、「見果つ」のような動作の完結を表す用法は中世以降衰退していくことが分かった。また近世以降は「疲れ果てる」のような状態の甚だしさを表す用法が多く用いられるようになっていくことが分かった。 なお、「~ハツ」については研究成果を2020年度秋季日本語学会にて口頭発表を行い、そこで受けた指摘をもとに調査対象や分析方法の再検討を行った。 また、「~ハタス」は中世頃には前項の動作を網羅的に行うことを表していたが、しだいに動作の〈完遂〉や程度の甚だしさを表す用法に展開していったことが分かった。また、近代になると「~ハタス」の用例は「ツカイハタス」や「ウチ(討)ハタス」にほぼ固定化していくことが分かった。これ以外の例もあるものの用例数は少なく、「~ハタス」は時代とともに衰退傾向にあることが分かった。 「~オエル」は管見の限り平安末期以降に用例が多く見られ始め、近代に至っても様々な語が前項にきており、〈完遂〉を表す複合動詞として汎用性があることが推測される。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、「~キル」「~ツクス」を対象とし、これらの複合動詞それぞれの歴史的な用法変化及びその要因を明らかにする。 さらに、これらの複合動詞と今まで調査してきた複合動詞を比較し、これらが歴史的にどのような競合関係をへて現代の使い分けに至ったのかを明らかにする。比較調査の際には、まず、用例数の変化や前項にくる動詞のバリエーションの変化等から、その複合動詞が歴史的に衰退傾向にあるのか、興隆傾向にあるのか検討する。 さらに複合動詞の用法や前項にきやすい動詞が歴史的に変化しているかどうか、用法変化がみられる場合にはどの時代に〈完遂〉用法を獲得したのか、また意味用法や前項にきやすい動詞が類似している用法があるか等に着目してこれらの複合動詞を比較する。 現時点では、用例数の変化や前項にくる動詞のバリエーションが多くなっているか、固定化しているかといった観点から、「~ハツ」「~ハタス」は衰退傾向にあり、「~オエル」は興隆傾向にあることが推測される。 2020年度に試験的に行った比較調査をもとに、より精緻化した分析方法を用いて、〈完遂〉を表す複合動詞の歴史的な競合関係の検討を行う。申請者が修士論文において調査した「~トオス」「~ヌク」「~スマス」及び、2020年度、2021年度に調査した複合動詞がどのように影響し合って現代の使い分けに至ったのか明らかにする。 また競合関係の分析の際には、他の類似した意味を表す語同士の影響関係に関する先行研究等を参考にする。
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