2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J14537
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
荻原 大樹 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 一般相対論 / ブラックホール / 電磁流体力学 / 相対論的ジェット / 活動銀河核 |
Outline of Annual Research Achievements |
銀河の中心部で明るく光るコア(活動銀河核)から光速に近い速さ(相対論的速度)で噴出するプラズマ流(ジェット)において、噴出物質がどのようにして注入されているのか未だ不明である。本研究の目的は、観測されているジェットの放射構造を理論モデルを用いて再現することによって物質注入機構を明らかにすることである。本研究では、一般相対論的効果を含めたブラックホール磁気圏におけるプラズマ流の運動の近似的な解析解モデルを構築し、輻射輸送計算を行い、ブラックホール近傍でのジェットの放射イメージを作成する。この結果を最新観測と比較することで、最新の理論数値計算では数値誤差の蓄積から制限が難しいジェット内部の密度分布を制限する。
2020年度の研究では、ジェットの理論モデルを構築した。全ての活動銀河核の中心には超巨大ブラックホールがあり、ジェットはブラックホールの回転エネルギーを磁場を介して引き抜くことで駆動されていると考えられている。定常軸対称を課した理想電磁流体の方程式系は磁力線に沿った4つの保存量を持つ。本研究では、ジェット内の全磁力線に対してこの4つの保存量を与える方法を新たに考案し、ジェットの近似解モデルを構築した。本モデルでは、重力と電磁力の釣り合う面上での速度が一定という条件のもとで、この面上の密度分布がブラックホールからの距離の二乗に反比例するという結果が得られた。この面上での速度の分布は物質注入機構によって異なることが予想され、このジェットモデルに輻射輸送計算を適用し、観測と比較することでジェット内部の密度分布や物質注入モデルを制限することができると予想される。ここまでの成果をまとめて論文を一本執筆した (Ogihara, Ogawa, Toma, 2021, The Astrophysical Journalに掲載受理済み)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究では、研究実績の概要で記述したように、ジェットの近似解モデルを構築した。当初の計画では、先行研究Takahashi & Tomimatsu 2008 (TT08)のモデルを利用する予定であった。定常軸対称を課した理想電磁流体の方程式系は磁力線に沿った4つの保存量を持つ。この4つの保存量をパラメーターに、位置座標を変数とした解析解の表式が先行研究(Takahashi et al. 1990など)によって求められている。4つのパラメーターは、ジェットが相対論的速度にまで加速するために、速度の解析解が特異点(速い磁気音速点)で発散しないように取らなければいけない。TT08では、解である磁場の方位角方向成分の関数を先に仮定することにより、速い磁気音速点を通る解が得られることを示した。当初はこの方法によりジェットモデルの構築を予定していたが、先行研究の再現を試みた際に、TT08の方法では4つの保存量のうち少なくとも1つが磁力線に沿って保存されないことが判明した。また、先行研究では一本の磁力線に注目していたため、複数磁力線間の力の釣り合いについて考慮されていなかった。これをうけて本研究では、独自の方法でモデルを構築するように計画変更をした。本研究では4つのパラメーターについて、速い磁気音速点の通過とseparation surface (重力とローレンツ力が釣り合う面) における磁力線間の力の釣り合いを含む4つの物理的条件を課すことで値を定め、解析解を用いてジェットモデルを構築した。釣り合いの評価を解析的に行った先行研究は一例しかなく、近似的にもそれを取り入れられたことによりモデルの自由度を減らし、当初の計画していたモデルより現実的なモデルを構築できた。このモデルを用いることで現実的な境界条件の下でジェットの密度が端で高くなることを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、M87銀河の銀河中心ブラックホールから数十シュバルツシルト半径の領域で観測されているジェットの縁が明るい放射構造と、ブラックホールから数シュバルツシュルト半径の領域で国際共同電波観測計画Event Horizon Telescope(EHT)による観測が期待されているジェット駆動領域の放射構造に注目する。現在までの研究で構築した準解析的ジェットモデルに一般相対論的輻射輸送計算を適用、放射イメージを作成することで、まずジェットの縁が明るい構造との比較からジェット内の密度分布を制限する。その後、ジェット駆動領域の放射構造を予測する。 ブラックホール周辺の密度分布は物質の注入モデルによって異なる分布が予想されている。電子陽電子注入モデル (Moscibrodzka et al. 2015)や注入後の電磁カスケードによって対生成を引き起こすモデル(Broderick & Tchekhovskoy 2015)など様々な説が提唱されている物質注入モデルについて、本研究によって観測と整合的なモデルを決定する。 本研究では、輻射輸送計算に一般相対論的効果を他のコードにはない高精度で取り扱うことができるコード RAIKOUを用いる。RAIKOUコードはすでにジェットからの放射に対して実用化されており、Kawashima, Toma, Kino et al. 2020では、separation surface(重力とローレンツ力が釣り合う面)上に配置した物質からの放射からEHTのM87の観測で見られたようなリング状の放射構造が得られることが示された。本研究ではジェット全体の物質分布をモデル化しているため、先行研究と同様の計算を適用することでジェット全体からの放射を計算し、疑似観測が可能になると考えている。
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