2020 Fiscal Year Annual Research Report
Development of field margin management for both endangered species conservation and pest control
Project/Area Number |
20J14661
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
出戸 秀典 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | ミヤマシジミ / メタ個体群動態 / 畦畔管理 / 中程度攪乱 / 保全優先地 / ヤドリバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、希少種ミヤマシジミの保全を主とした生物多様性保全と、水田害虫の低密度化の両立を可能にする畦畔管理体系を作ることを目的としている。そこで2020年度の研究実施計画は、①ミヤマシジミと斑点米カメムシのhotspotの季節変動を野外パターンと野外実験から調べることで、局所管理が地域スケールの個体群動態に強く影響を及ぼす場所を特定し、次に、②保全と害虫防除を行う上で重要な空間スケールと、個体群動態に大きな影響を及ぼす管理実施時期を特定することであった。 本研究の調査地は長野県にあり、多化性の蝶とカメムシの成虫・幼虫を調査の主な対象とするため、春から秋まで調査地に滞在して調査を行う必要があるが、2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大により、調査が開始できたのは7月以降であった。そこで、斑点米カメムシに関しての調査を断念し、ミヤマシジミに関する調査のみを2世代目から行うこととした。 2020年度はこれまでの調査・実験に加え、対象種ミヤマシジミの主要天敵であるヤドリバエの密度を調べる目的で自作のパントラップを設置した。捕獲効率は低かったものの、主要な寄生者であるサンセイハリバエが草刈りから時間が経つにつれて増加する可能性が示唆された。また、4年間の継続したモニタリングデータから、メタ個体群を形成する対象種の生息地ネットワークの時間変化を捉え、より優先して保全していくべき生息地パッチの特定にも成功した。また、草刈り実験は2年目を迎え、対象種の成虫が中程度の攪乱強度(10㎝高刈り)を好むことや、蝶の発生時期のうち6月上旬・7月中下旬・9月中旬のうち1回の草刈りを行うことが重要であることが見えてきた。 したがって、害虫個体群の時空間的な最適防除管理に関する研究は行えなかったが、希少種ミヤマシジミの実施計画①と②は概ね遂行でき、エビデンスベースの希少種保全に大きく貢献する成果を得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究は、希少種ミヤマシジミの保全と水田害虫の低密度化の両立を可能とする管理体系を確立することを目的としており、その体系の確立には3つの手順を踏む必要があると考えている。まず①ミヤマシジミと斑点米カメムシのhotspotの季節変動を野外パターンと野外実験から調べることで、局所管理が地域スケールの個体群動態に強く影響を及ぼす場所を特定する。次に、②保全と害虫防除を行う上で重要な空間スケールと、個体群動態に大きな影響を及ぼす管理実施時期を特定することで、ミヤマシジミのhotspotにおいて幼虫期を外した時期に非同調な管理を行い、個体群の安定性を評価する。カメムシに関しては、300~400mのスケールでhotspotにおいて幼虫期に草刈りを同調して行い、個体群の不安定性を検証する。最後に、③希少種と斑点米カメムシのhotspotが重なる場合には、高刈り等を行い、保全と防除のトレードオフ解消を目指す。 しかし、上で述べたとおり、まだ害虫に関する調査・研究は行えていない。希少種ミヤマシジミの保全に関する調査・研究に関しては、①は完了したが、②の生息地の非同調な管理がメタ個体群を安定させるのかについてはまだ時系列データが足りず解析できていない。③のミヤマシジミとカメムシの攪乱応答の違いを基にしたトレードオフの解消については、ミヤマシジミにとっては中程度の高刈りが望ましいことが示唆されているので、カメムシの高刈りによる応答を今後調べることで、トレードオフを解消可能になると考えている。 したがって、進捗状況は遅れているといえるが、今後の研究次第で、予想以上の進展が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り進捗は遅れているが、新型コロナウイルスの影響により欠損した分のデータは致し方なく、研究課題の推進は上記の3つの手順をもとにこれまで通り行っていく予定である。20020年度は新型コロナウイルスの影響で春から夏にかけての調査ができなかったことを受け、2021年度は感染拡大の第4波の懸念が高まる前の春先から調査地に滞在し、蝶と害虫の個体群動態を把握できるよう努めている。
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