2020 Fiscal Year Annual Research Report
メソ多孔性イオン結晶-金属クラスター触媒による協奏的なCO2光還元反応系の構築
Project/Area Number |
20J14672
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
下山 雄人 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | ポリ酸 / ポリオキソメタレート / 固体触媒 / 酸触媒 / 酸素生成 / イオン結晶 / 電化学 / 酸化還元触媒 |
Outline of Annual Research Achievements |
メソ多孔性イオン結晶Cr[Cr3O(OOCCH2CN)6(H2O)3]3[PW12O40]・69H2O (I)は酸化還元特性に乏しい。そこで、[PW12O40]3-と同じ価数を持ち酸化還元特性に優れた[PMo12O40]3+を用いて、酸化還元活性を持つメソ多孔性イオン結晶の合成を試みた。その結果、(I)と同構造を持つCr[Cr3O(OOCCH2CN)6(H2O)3]3[PMo12O40]・51H2O (II)を得ることに成功した。金属クラスター合成に重要な対カチオンの可換性を調査した結果、対カチオン交換体Mn+xH3-nx[Cr3O(OOCCH2CN)6(H2O)3]3[PX12O40]・nH2O (M=Fe3+, Cr3+,Co2+ etc, X=W or Mo)が容易に得られることが明らかとなった。(II)を用いて還元的イオン交換と金属ナノクラスター合成を試みた。しかし(II)は構造安定性に乏しく、酸化還元によって不可逆的な構造変化を起こし、触媒として不適であることが明らかとなった。一方で検討の過程で見出した対カチオンの可換を利用することで、(II)の酸触媒性能を連続的に制御できることを見出した。この結果をまとめた論文はDalton Trans., 49, 10328. (2020).に掲載された。 多孔性イオン結晶を酸化還元触媒として利用するためには構造の安定性が重要である。そこで、高価数のポリ酸を用いて新たな多孔性イオン結晶の合成を試みた。高価数のポリ酸は強い静電相互作用によって構造を安定化する。種々の検討の結果、高い構造安定性と酸化還元特性を持つ新規結晶(III)の合成に成功した。現在、(III)の酸化還元触媒への応用を検討しており、電気化学的な水の酸化に対して活性を持つことが示唆された。現在詳細な検討を進めており、論文投稿を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目的化合物である酸化還元活性なメソ多孔性イオン結晶を得ることに成功したが、構造安定性が課題となり酸化還元触媒としての利用することが出来なかった。一方で、検討の過程で得られた知見から酸触媒性能の連続的な制御が可能であることを見出すことに成功した。また、多孔性イオン結晶の酸化還元触媒への応用は初の取り組みであり、構造安定性を考慮した設計が必要であるという検討結果は今後の研究の指針の一つとなる知見である。この知見に基づいて、酸化還元活性と構造安定性の両面を考慮して設計した新たな多孔性イオン結晶は、酸化還元を行っても元の構造を維持できることが確認された。また、この新規の結晶は当初の目的であるCO2還元や水の酸化といった人工光合成に重要な反応の基質(CO2や水)と強く相互作用できることが実験的に明らかにできており、当初の目的とも合致した性質を持つ。実際に電気化学的な水の酸化反応を行うと、この新規結晶が構成ブロックのポリ酸とマクロカチオンとは異なる特異な触媒活性を持つことが示唆された。この特異な触媒活性は構成ブロック間での協奏効果によって生み出された可能性がある。多孔性イオン結晶を用いた水の酸化触媒は初の例であり、協奏効果の発現と合わせて水の酸化触媒の開発に大きなインパクトを与えることが期待できる。以上、総括すると当初の目的化合物は構造安定性の面に課題があり、酸化還元触媒としての応用は困難であった。しかし、検討の過程で酸触媒としては連続的な酸特性の制御が可能である事を見出した。また多孔性イオン結晶における酸触媒活性の起源に迫る重要な知見を得ることが出来た。新たに合成した多孔性イオン結晶は、安定性と酸化還元特性を併せ持ち、水の酸化触媒として機能することを明らかにした。この知見は次年度の研究推進に役立つものである。 したがって初年度としては研究がおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度は、水の酸化触媒として機能する安定な多孔性イオン結晶を見出すことに成功した。また、構成ブロック間での協奏効果による触媒活性の発現が示唆された。このような構成ブロック間での協奏効果による活性発現は多く報告されているものの、その起源に迫った研究例は少なく、協奏効果を狙って発現させることは困難である。協奏効果の起源を解明し、意図的に協奏効果を発現させることが出来れば、高活性触媒の実現に大いに貢献できる。そこで、次年度はまず物理化学的な実験から多孔性イオン結晶における協奏効果の発現起源を解明することを目指す。具体的には、電気化学測定、ガス吸着測定、X線光電子分光などを用いて構成ブロック間の相互作用を明らかにする。また、速度論的な解析によるメカニズムの推定も行う。これらにより協奏効果の発現起源を明らかにしたのちは、その知見に基づいた高活性触媒の合成、解析を実施する。また、水素生成やCO2還元など、水の酸化反応以外にも類似の協奏効果が発現している可能性がある。これらの反応についても順次検討を行い、触媒活性の有無、協奏効果の有無を明らかにする。得られた結果については、適時学会発表や論文の執筆を進めていく予定である。
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