2020 Fiscal Year Annual Research Report
Regular exercise suppresses obesity-associated HCC development
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20J14768
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
高田 尚輝 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 肥満 / 肝癌 / 運動 / 臓器連関 / マイオカイン / キヌレニン / 芳香族炭化水素受容体 / がん微小環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は高脂肪食誘導性の肝癌形成に対する規則的な運動によるがん抑制効果に関して、臓器連関メディエーターとして、骨格筋で産生されるイリシンとキヌレニンに着目してその分子メカニズムを明らかにすることである。 まず、マイオカインの1種であるイリシンに着目し、血中イリシン濃度をELISAにて測定を行った所、通常食摂取群に比べて高脂肪食摂取肥満群で有意に増加し、更に肥満群においては非運動群に比べて運動群で有意に低下を認めた。そこで、肥満マウスにおいて脂肪組織由来のアディポネクチンとしてイリシンが肝がん促進に寄与し、運動によって脂肪組織由来のイリシンが減少するために肝癌が抑制されるのではないかと考えた。まず脂肪組織と骨格筋由来のイリシン(mFndc5)に遺伝子変化がないかを確認した所、塩基配列に変化は認めなかった。次に高脂肪食誘導性肝癌モデルマウスの運動群にリコンビナントイリシン投与を行ったが、非投与群に比べて肝癌の促進作用は認められず、肝臓に蓄積した脂肪滴は改善傾向であった。以上の結果、イリシンは肝保護的に作用し、高脂肪食肥満マウスでイリシンの上昇は肝保護のためであると考えられた。 次にトリプトファン代謝物であるキヌレニンに着目した。高脂肪食誘導性肝癌モデルマウスの血清のメタボローム解析にて非運動群と比較して運動群でキヌレニンの減少を認めたことから、キヌレニンが肝臓中のAhR(芳香族炭化水素受容体)のリガンドとして作用し、脂質代謝・免疫応答に関与し、肝癌発症を促進するのではないかと考えた。そこで、ヒト肝癌細胞株(HepG2)・マウスの肝癌細胞株(Hepa1-6)、ヒト不活化肝細胞株(HuS E/2)で、AhRが発現していることをWestern blottingで確認した。その上で、これらの細胞株を用いてルシフェラーゼアッセイを行い、キヌレニンがAhRのリガンドとなることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
①研究環境として、新型コロナウイルス感染症拡大防止のために発令された「緊急事態宣言」により、当該年度は研究時間の短縮を余儀なくされたことが挙げられる。 ②予備検討として、運動による肥満誘導性肝癌抑制効果に関わる臓器連関メディエーターとしてイリシン・キヌレニンの2つの候補に着目して、まずこれらの運動による血中濃度をELISAキットにて測定したが、いずれも精度に問題があり、再現性が乏しいことが実験の開始を遅らせる要因となった。また、肥満マウスをトレッドミルランニングさせるために先行研究で確立されたプロトコルを使用してきたが、設定したランニングのスピードではプロトコルから脱落するマウスが増加し、十分なサンプル数を確保できなかったことが、実験結果の判断を悩ませる結果となった。 ③実験結果として臓器連関のメディエーターとしてイリシンとキヌレニンの2つの候補を挙げ実験を行ったが、イリシンを候補とした実験が予想と反する結果となったことが研究の進展に時間を要する原因となった。規則的な運動を行ったマウスでELISAで血中イリシン濃度の減少を認めたため、脂肪由来のアディポネクチンとしてのイリシンが肝癌促進因子になると考えたが、in vivoの実験ではイリシン投与による肝癌の促進作用を認めなかった。しかしながら、キヌレニンに関してはin vitroでヒト・マウスの肝がん細胞株において芳香族炭化水素受容体(AhR)が発現し、更にはルシフェラーゼアッセイでキヌレニンがAhRのリガンドであることが確認できたため、今後はキヌレニンに着目し、運動による骨格筋と肝臓におけるキヌレニン代謝の変化及びそのキヌレニンの肝臓への作用を明らかにすることで、高脂肪食誘導性の肝癌形成に対する規則的な運動によるがん抑制効果に関してメカニズムの解明を進めることができると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度にレポーターアッセイを用いてキヌレニンがヒト肝細胞株、ヒト・マウスの肝癌細胞株に発現するAhR(芳香族炭化水素受容体)のリガンドとして作用することを確認できた。そこで採用2年目はキヌレニンが肝臓中のAhRのリガンドとして作用し、脂質代謝・免疫応答に関与し、肝癌発症を促進するのではないかと考え、骨格筋と肝臓の臓器連関のメディエーターの候補としてキヌレニンに着目する。 現在の問題として、①キヌレニンのELISAキットが再現性に乏しいこと及び、②トレッドミルランニングプロトコルから脱落するマウスが増加したことが挙げられる。この問題点に対しては①LC-MSを用いてキヌレニンを測定することでより高精度かつ正確に、運動による血中キヌレニン濃度の変化を評価し、②トレッドミルランニングプロトコルの見直しによって実験に必要なサンプル数を十分に確保することで対応する予定である。 その上で、まず運動による肝臓・骨格筋中のトリプトファン及びキヌレニン代謝に関係する酵素や転写因子などの遺伝子発現・蛋白の変化をReal-time PCR法、Western blotting法で確認する。次にキヌレニンを肥満誘導性肝癌モデルマウスへ投与し、個体レベルでの脂肪肝の程度、肝癌発症の変化、脂質代謝・胆汁酸代謝酵素の遺伝子発現の変化を検証する。更には運動によって発現が増加する転写共役因子であるPGC1-αを非運動群の骨格筋筋線維特異的に遺伝子導入をして過剰発現させ、そのターゲット遺伝子である、骨格筋のトリプトファン・キヌレニン代謝酵素の変動、キヌレニンの血中濃度変化を測定し、脂質代謝・胆汁酸代謝障害、抗腫瘍免疫の低下などのがん微小環境に対する効果を検証する予定である。
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Research Products
(1 results)