2020 Fiscal Year Annual Research Report
Temperature and time dependent mechanism of fatigue crack propagation in Ni-base superalloy
Project/Area Number |
20J14882
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
鈴木 子游 東京工業大学, 工学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | Ni基超合金 / クリープ疲労き裂進展 / クリープ損傷 / 応力緩和 / き裂閉口 / 有限要素解析 / 結晶粒界 / 結晶粒径 |
Outline of Annual Research Achievements |
ジェットエンジンのタービンブレードやディスクに用いられるNi基超合金には,起動・停止に伴う疲労負荷と,定格運転時の高温環境での負荷保持が加わる.本研究の目的は,疲労負荷により発生した疲労き裂に,負荷保持中の時間に依存して進行するクリープ変形が生じる場合のき裂進展のメカニズムを明らかにすることである. 本年度は,負荷保持がき裂進展に与える影響を抽出するため,単結晶試験片を用いて,純粋な疲労負荷中に単発の負荷保持を導入した特徴的なクリープ疲労き裂進展試験を実施した.その結果,負荷保持後に疲労負荷を再開すると,新生き裂が速やかに発生した後,疲労き裂進展速度が急激に低下した.また,き裂の遅延の程度は,結晶方位や温度,負荷の大きさや保持時間に依存した. この疲労き裂の進展メカニズムを明らかにするため,電子顕微鏡やエネルギー分散型X線分析を用いて,負荷保持後のき裂先端の様子を観察した.その結果,き裂先端のごく近傍でクリープボイドやγ’析出強化相の消失が生じていることが確認された.この材料の劣化により,疲労負荷再開後に新生き裂が速やかに発生したと考えられた.また,デジタル画像相関法と有限要素解析により,き裂先端のひずみ・応力場を精査した.その結果,負荷保持中のクリープ変形に伴い,き裂先端の閉口や応力の緩和が生じることが明らかになった.これにより,疲労き裂の遅延が生じたと考えられた. 以上の結果より,単結晶Ni基超合金のクリープ疲労き裂進展の基本的なメカニズムを解明できた.進捗としては,本年度開始時に予定した計画とおおむね一致している.今後は,有限要素解析により得られたひずみ・応力場に基づき,疲労き裂の遅延挙動の定量化を図る.また,結晶粒界を含む多結晶超合金を対象に,結晶粒径がき裂進展挙動へ与える影響を検討する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで,単結晶Ni基超合金のクリープ疲労き裂の基本的なメカニズムを解明することを目的とし,純粋な疲労負荷中に単発の負荷保持を導入した特徴的なクリープ疲労き裂進展試験を実施してきた.具体的には,単結晶鋳造板材から作製した,負荷方向が<110>方位もしくは<100>方位の2種類のCT試験片を用い,900℃と700℃で,疲労負荷の平均値か最大値の負荷保持を30~180分加えた. 負荷方向が<110>方位の試験片を用いて900℃で実験を行ったところ,疲労負荷の平均値で負荷保持を加えた場合は,疲労負荷再開後のき裂進展速度に大きな変化は見られなかった.一方,疲労負荷の最大値で負荷保持を加えた場合,疲労負荷を再開すると,新生き裂が速やかに発生した後,疲労き裂進展速度が急激に低下した.その後,進展速度が低下した状態が一定距離続いた後,き裂進展速度は急激に上昇して純粋な疲労き裂進展試験で得られた値に収束した.また,き裂の遅延の程度は,結晶方位や温度,負荷の大きさや保持時間に依存した. 以上の疲労き裂の進展メカニズムを明らかにするため,電子顕微鏡やエネルギー分散型X線分析を用いて,負荷保持後のき裂先端の様子を観察した.その結果,き裂先端のごく近傍でクリープボイドやγ’析出強化相の消失が生じていることが確認された.この材料の劣化により,疲労負荷再開後に新生き裂が速やかに発生したと考えられた.また,デジタル画像相関法と有限要素解析により,き裂先端のひずみ・応力場を精査した.その結果,負荷保持中のクリープ変形に伴い,き裂先端の閉口や応力の緩和が生じることが明らかになった.これにより,疲労き裂の遅延が生じたと考えられた. 以上の通り,これまでに単結晶Ni基超合金のクリープ疲労き裂進展の基本的なメカニズムを解明し,当初予定した計画におおむね沿った進捗が得られている.
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Strategy for Future Research Activity |
まず,単結晶試験片について,有限要素解析により得られたき裂先端力学場に基づき,クリープ負荷に伴う疲労き裂の遅延挙動の定量化を図る.なお,有限要素解析に関しては,単結晶超合金の強い結晶異方性を考慮するため,単結晶鋳造板材から作製した異なる結晶方位の単軸引張・クリープ試験片を用いて,異方性のヤング率・降伏応力・クリープ特性を取得し,モデルに適用する. 次に,結晶粒界を有する多結晶超合金を用いて,単発の負荷保持によるクリープ疲労き裂進展試験を行う.結晶粒径が大きい場合には,粒内のクリープ変形の影響が大きくなり,単結晶試験片と同様に,負荷保持後に疲労き裂は遅延すると予想される.一方,粒径が小さい試験片では,負荷保持中に粒界が酸化・脆化され,負荷保持後に疲労き裂は加速すると予想される.この遅延から加速への遷移挙動を,様々な結晶粒径の試験片を用いて検討する.負荷保持中に,き裂先端で粒界の酸化・脆化が生じる領域を「加速域」とし,その大きさを電子顕微鏡やエネルギー分散型X線分析を用いて評価する.同時に,き裂先端で応力緩和や残留クリープ変形が生じる領域を「遅延域」とし,デジタル画像相関法や有限要素解析により評価する.加速域と遅延域の大小関係に基づき,疲労き裂が遅延から加速へと遷移する条件を評価し,それに与える粒径,温度,負荷の大きさや保持時間の影響を検討する.
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