2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J14917
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
高畑 早希 名古屋大学, 人文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 民話運動 / 民話ブーム / 児童文学 / ディスカバー・ジャパン / 戦後文化運動 / 農村 / エコクリティシズム / グリーフケア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1940年代後半から80年代の日本において展開された民話運動および「民話ブーム」の内実を文学・文化研究の立場から明らかにすることを目的とする。本研究を遂行するための達成目標は、Ⅰ.1950年代の第1次民話運動と、そこから派生して今日まで継続する都市部中心の運動を、民衆文化運動史のなかで通史的に明らかにすること。Ⅱ.先行研究で看過されてきた地域の運動や商業的な領域を影響圏としてくくることで、民話を中心的な問いとした文化的気運の関係性を複眼的に明らかにすることである。 成果①:民話運動史について、1970年代~80年代の運動で中心的な役割を果たした児童文学者の松谷みよ子について検討を行った。近年、グリーフケアの文脈から再評価される松谷の戦争児童文学が、80年代の民話運動のなかで創作された点に注目し、その創作活動の特徴と、後年にグリーフケアと共鳴関係を結ぶ要因について明らかにし、口頭発表を行った。 成果②:民話ブーム史については、1970年代のディスカバー・ジャパン・キャンペーンのなかで、民話が商品化される状況を、当時のファッション雑誌や旅行雑誌の分析によって指摘した。その上で、アラスカの民話を題材とした大庭みな子の小説「火草」(1968年)と、「トーテムポールの海辺」(1973年)を取り上げ、これらの小説に描かれる民話や自然と交感する女性像が、前述した民話ブームにおいて前景化された消費者としての女性像とは異なることを指摘し、エコクリティシズムとエコフェミニズムの観点から再評価を行った。 成果③:本研究の対象とする文化運動が、民話の「発生源」の一つとして関心を寄せてきた農山漁村の文化を考察するため、雑誌『家の光』を分析するオンライン勉強会を立ち上げた。この勉強会には、文学研究者のほかに歴史学の研究者らも参加しており、領域横断的な議論の場が形成されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、新型コロナウイルスの流行の影響を受けて、年度前半に予定していた運動経験者へのインタビューや、他機関での資料踏査は制限を受けざるを得なかった。大学図書館や書店を通じて収集した資料の分析とそれに基づいた成果発表には、上述の理由から一定の限定が生じた。しかし、この限定のなかでも、収集した資料を最大限に活用して、達成目標である民話運動と「民話ブーム」の通史的な解明のために必要な課題を進展させることができたと考える。 特に、資料収集・調査面では、復刻版が刊行されていない雑誌資料を入手することができ、その調査を新たに発足させた研究会や勉強会を通じて多角的な視点から進めることができている。 また、年度前半には、新型コロナウイルスの流行のために学会の中止や延期が生じたが、オンラインの研究会に複数参加することで、定期的な研究報告の場を確保し、研究の進度を大幅に変えることはなかったと考える。 以上のような理由から、本年度の研究課題の進捗について、「おおむね順調に進展している」と評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
①研究目標の「Ⅰ」に関してA1・A2の計画を実施する。 A1. 第1次民話運動を牽引した「民話の会」の機関誌『民話』の整理・分析を行う。この成果については2021年7月に論文の投稿を予定している。また、第1次の運動で中心的な役割を果たした劇作家木下順二に着目し、木下が「現代の民話」と称して創作した作品の分析を行う。成果については、2021年8月に国際ワークショップでのパネル報告を検討している。A2. 第1次民話運動が第2次の運動へと移行する1960年代に展開された民話教育に着目し、教育活動と民話運動の相互関係について分析する。特に、「国民教育」と称して民話と教育の接続を試みた西郷竹彦の業績について検討を行う予定である。 ②研究目標の「Ⅱ」に関してA3・A4の計画を実施する。 A3. A2での成果と、松谷みよ子の業績についての報告(2020年度)をまとめ、論文の投稿を行う。また、2021年9月に宮城や広島などの地域における民話運動について資料調査を進め、2022年2月に予定されている国際研究集会において口頭発表を行う。A4.「民話ブーム」の分析として継続的に行ってきた宮沢賢治と民話の関係性について、映画版『風の又三郎』(「風の又三郎 ガラスのマント」1989年)を中心に考察を行う。 以上に示したように、来年度は資料調査の継続と口頭発表を行うと同時に、論文執筆により注力することで研究を進めたい。
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