2020 Fiscal Year Annual Research Report
新規脂肪酸カルシウムによる牛のメタン低減~菌叢解析によるメカニズムの解明~
Project/Area Number |
20J15021
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 元映 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 反芻動物 / メタン / 脂肪酸カルシウム / ルーメン微生物 |
Outline of Annual Research Achievements |
反芻動物の第一胃(ルーメン)より排出されるメタンは地球温暖化の一因となっている。「脂肪酸のモル比を高くした新規脂肪酸カルシウム」は反芻動物の飼料として使用した場合、メタン産生を低減させ、エネルギー源となるプロピオン酸の割合が増加することがin vitro実験で明らかになっているが、実際に反芻動物に与えた際にメタン産生やルーメン微生物にどのような効果があるのかはわかっていない。そこで、本研究では新規脂肪酸カルシウムを与えた際の影響を検討することにした。また、新規脂肪酸カルシウムの効果に品種間差があるかどうかを検討することにした。 本年度はまずin vitro条件下で新規脂肪酸カルシウムを添加した際のメタン産生およびルーメン微生物への影響を濃厚飼料基質条件下および粗飼料基質条件下で評価した(研究1)。そして新規脂肪酸カルシウムの効果に品種間差があるのかを検討する前試験として、同じ飼料を給与した際のルーメン微生物叢に品種間差があるのかを検討した(研究2)。 研究1:新規脂肪酸カルシウムを添加した場合、濃厚飼料基質条件下および粗飼料基質条件下でメタン産生が大幅に減少し、ルーメン微生物叢も大きく変化することが明らかになった。そのため、メタン産生を減少させる有用な添加物であることが示唆された。一方で、基質の消化率に負の影響があり、その効果は添加量に比例して大きくなっていったため、適正な給与割合で給与する必要があることが示唆された。 研究2:同一飼料を給与された黒毛和種と交雑種(F1:黒毛和種×ホルスタイン種)のルーメン微生物叢を比較した。その結果、黒毛和種のルーメン微生物叢はF1と比較し異なるルーメン微生物叢を形成し、機能も異なることが示唆された。そのため、新規脂肪酸カルシウムの給与効果を検証するためには様々な品種のウシに対する給与試験を実施する必要があることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究ではin vitro試験により新規脂肪酸カルシウムの効果を検討し、濃厚飼料基質条件下および粗飼料基質条件下でメタン産生が減少し、ルーメン微生物叢が変化することを明らかにした。特に、濃厚飼料条件下ではメタン産生に大きく関与するメタン菌Methanobrevibacterの存在割合が大きく減少し、プロピオン酸の産生に関与する細菌SelenomonasやSucciniclasticumの割合が増加することまで明らかにした。この結果、新規脂肪酸カルシウムを添加した際のメタン産生が抑制されるメカニズムまで明らかにすることができた。 ルーメン微生物叢に品種間差がなければ新規脂肪酸カルシウムの給与効果にも品種間差がないと考え、前試験として、黒毛和種とF1のルーメン微生物叢を比較した。その結果、黒毛和種のルーメン微生物にはRuminococcaceae科、Lachnospiraceae科およびTreponema属に属する細菌が、F1にはPrevotellaceae科に属する細菌の存在割合が多いことを明らかにした。また、糖質関連酵素の解析の結果、黒毛和種ではセルロースやヘミセルロース代謝に関する酵素群および糖結合モジュールの中に、F1ではペクチンやデンプンの分解や代謝に関する酵素群および糖結合モジュールの中に高頻度に現れるものがみられることを明らかにした。以上の結果から、黒毛和種はF1と比較し異なるルーメン微生物叢を形成し、機能も異なることが示唆された。そのため、新規脂肪酸カルシウムの給与効果を検証するためには様々な品種のウシに対する給与試験を実施する必要があることが示された。以上のように、当初の予定通り、研究は十分に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究によって、新規脂肪酸カルシウムがメタン産生を抑制する有用な添加物である可能性がin vitro試験によって示唆された。また、ウシのルーメン微生物叢に品種間差があり、新規脂肪酸カルシウムの効果を検討する際は様々な品種のウシを対象に研究を行う必要があることが示唆された。そのため、次年度は黒毛和種を含めた様々な品種のウシを用いたin vivo試験を行い、新規脂肪酸カルシウムのメタン低減効果を検討する。その際に、ルーメン微生物への影響も検討し、in vitro試験に影響がみられたMethanobrevibacterやSelenomonas、Succiniclasticum等の細菌に影響があるのかを確かめる。また、家畜生産では生産性も重視されるため、生産性の指標となる増体や飼料効率、飼料摂取量も併せて調べ、生産性への影響も評価する。 以上の結果を取りまとめ、新規脂肪酸カルシウムがウシのメタン低減添加物として有用かどうかを評価する。
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Research Products
(2 results)