2020 Fiscal Year Annual Research Report
ストレス顆粒へのトランスロケーションに着目したPKCシグナル制御機構の解明
Project/Area Number |
20J15403
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
神田 勇輝 近畿大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | PKC / ストレス顆粒 / MAPKシグナル / 時空間的制御 / 熱ストレス / 分裂酵母 / トランスロケーション / 相分離 |
Outline of Annual Research Achievements |
Protein Kinase C (PKC)は細胞の生死を決定する上で重要な役割を果たしていることから、PKCの制御機構を明らかにすることは極めて重要である。高等生物のPKCは熱やヒ素などの環境刺激に応答してストレス顆粒へ移行することは報告されているが、PKCの制御機構との関係については未解明である。 本研究では、「ヒトPKCの分裂酵母オルソログであるPck2のストレス顆粒移行」に焦点をあて、ストレス顆粒がPck2及びその下流のMAPKシグナルの活性にどのような影響を与えるのか、また申請者がPck2/MAPKシグナルの制御因子として同定した、ストレス顆粒の構成因子であるDed1がPck2のストレス顆粒移行に与える影響、及びDed1によるPck2/MAPKシグナル制御機構を明らかにすることで、今までに提唱されていない、PKC の活性制御機構やPKC/MAPKシグナル制御の場としてのストレス顆粒の役割を解明することを目的としている。 令和2年度では、①PKCは45℃という高温の熱ストレス条件下においてPck2の活性化の場である細胞膜からストレス顆粒へ移行すること、②Pck2は自らのキナーゼ活性及び下流のMAPKシグナルの活性依存的にストレス顆粒へ移行すること、③Pck2のストレス顆粒移行はPck2の細胞膜への再移行を抑制し、MAPKシグナルの活性化を阻害させる役割があること、さらに④高温刺激は細胞質に存在するPck2を凝集層へ移行させることにより、細胞質におけるPck2のキナーゼ活性が減弱すること、を明らかにした。 これらの結果は「ストレス顆粒によるPck2/MAPKシグナルを制御するための負のフィードバック機構」が存在することを示しており、PKCのストレス顆粒移行メカニズムやPKCがストレス顆粒へ移行する生理的意義を理解する上で、極めて重要な知見であると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
令和2年度の研究では、熱ストレスによりPck2/MAPKシグナルが活性化すると、Pck2は自らのキナーゼ活性や標的であるMAPKシグナルの活性依存的にストレス顆粒へ移行し、その結果、Pck2/MAPKシグナルの活性化が阻害されるという、「ストレス顆粒によるPck2/MAPKシグナルを制御するための負のフィードバック機構」が存在することを見出した。これは、ストレス顆粒がPKCや MAPKシグナルの制御機構としてこれまでに明らかにされてきたリン酸化・脱リン酸化による活性制御の枠を越えた、シグナル分子を空間的に制御する「第3のシグナル制御」の場として機能することを示唆している。よって、「今までに提唱されていない、PKC の活性制御機構やPKC/MAPKシグナル制御の場としてのストレス顆粒の役割を解明する」という本研究の目的を達成する上で、これらの研究成果は極めて重要な知見であると言えるため、令和2年度の研究は当初の計画以上に進展したと考えている。 しかし、「Pck2のキナーゼ活性やMAPKシグナルの活性がどのような分子を介してPck2のストレス顆粒移行を制御しているのか」や「ストレス顆粒形成とPck2/Pmk1 MAPKシグナルの活性制御の関係性」について未解明な点が残されているため、令和3年度では、新たなPck2/Pmk1 MAPKシグナルの制御因子であり、ストレス顆粒の構成因子でもあるRNAヘリケース、Ded1がストレス顆粒形成にどのように関わるのか、またDed1がPck2のストレス顆粒移行やPck2/Pmk1 MAPKシグナルの活性制御においてどのような役割を果たしているのかを明らかにすることで、PKCの新たな制御の場として機能するストレス顆粒の役割について更なる理解を得る。
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Strategy for Future Research Activity |
PKCの新たな制御の場として機能するストレス顆粒の役割について更なる理解を得る目的で、新たなPck2/MAPKシグナルの制御因子であり、ストレス顆粒の構成因子でもあるRNAヘリケース、Ded1がストレス顆粒形成やPck2のストレス顆粒移行、さらにはPck2/MAPKシグナルの活性にどのような影響を与えるのかを検証する。以下には具体的な方策(①ー③)を示す。 ①Ded1がストレス顆粒形成にどのような影響を与えるのかを明らかにする目的で、各種Pck2変異、Ded1変異細胞(Pck2:キナーゼ活性亢進・低下変異細胞など、Ded1:ヘリカーゼ活性低下やSG移行に重要なLCR(低複雑性領域)欠損変異細胞など)及びMAPK欠損細胞などを用いて、各種変異Ded1とストレス顆粒マーカー(PabpやNrd1など)との共局在観察を行う。 ②Pck2のストレス顆粒移行やストレス顆粒によるPck2/MAPKシグナルの活性制御におけるDed1の役割を明らかにする目的で、各種Pck2変異、Ded1変異細胞及びMAPK欠損細胞を用いて、(A)蛍光顕微鏡観察によるPck2のストレス顆粒移行能の評価、(B) in vitro kinase assayによるPck2のキナーゼ活性の評価、(C) Western blotting法によるMAPKのリン酸化レベルの評価を行う。 ③申請者はこれまでに、Pck2とDed1が結合することやSGで共局在することを明らかにしている。そこで、Pck2のストレス顆粒移行がどのような分子との物理的相互作用によって調節されるのかを明らかにする目的で、各種Pck2、Ded1変異体を用いて、Pck2とDed1の結合にPck2活性やDed1のLCRやヘリカーゼ活性が必要であるか否かを検証する。
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