2020 Fiscal Year Annual Research Report
Precise measurement of neutrino-nucleus interaction with nuclear emulsion
Project/Area Number |
20J15496
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
鈴木 陽介 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
|
Keywords | ニュートリノ / 原子核乾板 / J-PARC |
Outline of Annual Research Achievements |
ニュートリノ振動は素粒子標準模型の枠組みを超えた唯一の実験事実であり、統一理論など新しい物理への重要な手掛かりである。特に長基線ニュートリノ振動実験においては、将来の大型検出器を用いた大統計の実験により精密測定が予定されており、物質優勢宇宙の起源を明らかにするための手掛かりであるCP位相の測定や未知の対称性を示唆する混合角θ23が最大混合であるかの検証を行う予定である。これらの目標に対し、系統誤差の削減が課題であり、解決のためにニュートリノ反応への正しい理解が必要不可欠である。 本研究では原子核乾板という非常に高い位置分解能を持つ検出器を用いて、スーパーカミオカンデ検出器と同一標的の水に対してニュートリノ反応の精密測定を行うことを目標としている。 当該年度の研究では、まずニュートリノビーム照射を終えた原子核乾板の現像を行い、その後自動飛跡読取により飛跡読取を行うための原子核乾板フィルムの前処理を行った。そして、飛跡読取方法の検討を行い、従来の飛跡読取アルゴリズムに比べ角度アクセプタンスがtanθ=1.5からtanθ=4.0への拡大を行った。また、これを高速に行うための処理フローを整えることで従来の4倍の速度での飛跡読取及び再構成が可能となった。現在は飛跡検出効率の評価を終え、全原子核乾板の飛跡読取を進めている。 また、ニュートリノ反応探索も飛跡再構成と平行に行っており、2020年9月には物理ランにおける初めてのミューニュートリノ反応の検出に成功した。今後、検出したニュートリノ数を増やしていき2021年度に全飛跡再構成及びニュートリノ反応検出を完遂する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度、初めには原子核乾板の飛跡読取におけるパラメータの最適化及び再構成手法の開発を行った。従来の方法ではtanθ=4.0までの大角度の飛跡読取を行うと全フィルムの飛跡読取に数年の時間が必要であった。従来はリアルタイムで画像取得、飛跡検出を行っていたものを、リアルタイムでの処理は画像取得に留め、別の計算機を用いて飛跡検出を行うことで、実際に人手が必要な処理の時間を短縮した。これにより全フィルムを約1年で飛跡読取出来る速度にした。また、一度保存した画像を用いて飛跡の位置と角度を再計算させるアルゴリズムを開発しtanθが2を超えるような角度領域において飛跡の角度精度を約二倍に向上させた。これにより、飛跡接続の許容値を狭くすることが可能になり、S/Nの向上や計算量の低減を達成した。これら一連の処理フローの確立により、大角度までの飛跡を高速に高いS/Nで検出できるようになり、高精度な測定が可能となった。 また、ニュートリノビーム下流側のミューオン検出器と原子核乾板検出器間の飛跡接続にも成功しており、原子核乾板内の飛跡にミューオン識別の情報を付与することが可能になった。この情報を用いて、原子核乾板検出器を貫通しないミューオン飛跡を抽出することで検出器内のニュートリノ反応の検出を行った。また、ミューオンの飛跡周辺に一転収束する飛跡を探索することでニュートリノ反応から放出された飛跡の検出も可能であり、これらの処理の実装を行った。その成果として、2020年9月の物理学会にて終状態にミューオンと陽子がある反応(1μ0π1p)の検出に成功したことを報告した。
|
Strategy for Future Research Activity |
原子核乾板内の飛跡検出及び再構成から、下流の検出器の情報も用いたニュートリノ反応検出手法は当該年度の研究成果により確立している。今後はこれらを全原子核乾板フィルムに対して適用し物理ランにおける全体積でのニュートリノ反応検出を進めていく。また、下流ミューオン検出器の情報を用いずに原子核乾板検出器の情報のみを用いた解析も進めていく。原子核乾板内から始まる飛跡のみを抽出し、1点収束する飛跡群を探索することで、ニュートリノ反応の検出が可能である。この方法を用いることで、ミューオンニュートリノ反応に限らず、電子ニュートリノ反応の検出も可能であると考えている。物理ランでは30事象の電子ニュートリノ反応があると期待されているため、統計精度30%での電子ニュートリノ反応断面積の決定を目指す。 反応検出後は、各飛跡の運動量測定が必要であり、本実験の検出器構造に適した測定方法を開発する予定である。モンテカルロシミュレーションにより、運動量測定手法の精度を推定しその方法を実データに適用していく予定である。 これらの解析を行い、各反応における放出粒子の種類、角度、運動量及びその測定精度を測定し複数のニュートリノ反応モデルによる分布と比較することによりニュートリノ反応モデルの制限を行っていく。
|