2020 Fiscal Year Annual Research Report
世界の多様性と歴史性―18‐19世紀中葉のドイツ語圏旅行記の思想史的研究
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20J15526
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
大林 侑平 名古屋大学, 人文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 人間学 / 自然史 / エコノミー / 完全性 / 旅行記 / Alexander von Humboldt / 自然哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、18世紀ドイツ語圏の言説を人間学(Anthropolgie)の観点から特徴付ける研究動向を踏まえ、人間学の主導的概念である完全性の概念の規定とその系譜を追跡するため、F. ブランケンブルクによる文芸の形而上学や道徳論、C. ヴォルフの形而上学や心理学、彼の影響下にあった「通俗哲学(Popularphilosophie)」の人間学テクストを広く渉猟した。 その際エコノミー概念の系譜との近接性が浮き彫りとなり、この概念の系譜も追跡した。エコノミーの概念の系譜は、C. リンネやG. ビュフォンの自然史、J. ヴィンケルマンの芸術史、シェリングの自然哲学のほか、自然法や自然神学、官房学のテクストにも辿ることができる。その際エコノミーの概念は、自然に内在する神的秩序を意味する場合もあれば、経済活動や経済学的現象を意味する場合もあったが、いずれも相互的な目的-手段のヒエラルキーを想定した文脈で使用された。 完全性が自然に内在する最高目的と措定される限りで、完全性はエコノミーと切り離し難い概念であるが、同時にエコノミー概念が全体論的で決定論的な自然秩序を表象させる限りで、理性能力を有する人間の完全性に自律性の根拠を求める啓蒙思想にとって、両概念の関係には両義性がある。エコノミーは神的自然の合目的性が実現した秩序であり、その実現は幸福な状態を意味するからである。 今年度の以上の成果は、従来多くが個別事例に留まってきた人間学的言説の研究に、完全性概念とエコノミー概念を鍵に、一貫した視点を与え、研究史上一定の意義を持つ。また、この視点は本研究が主に対象とする旅行記に現れる美学的な自然記述を分析する上で重要であり、同時に倫理学含意と、生物学における目的や機能の概念に関する示唆を有していることから、次年度にA. フンボルトの生態学的かつ美学的なテクストに取り組む際不可欠となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は新型コロナ感染症拡大に伴い研究活動の計画全般で変更を迫られた。図書館の閉鎖や授業形態や学会の開催形式の変更、移動の制限などで多くの時間、機会、労力が失われたのは事実である。 しかし幸いなことに、本研究で扱う一次文献は多くがインターネット上の電子アーカイブスやリプリントの形で入手でき、また、その他二次文献は、出張関連が取りやめになって浮いた予算で潤沢に入手できたため、研究内容は当初の研究計画を超えて充実し、進展している。 実際研究計画では完全性概念の系譜を辿ることを旅行記の読解に並行して遂行すると記したが、エコノミー概念の系譜との関係から論じることで、より広い射程を手に入れることができた。 ただし上述した理由で研究成果の公開に多少遅れが出ているため、「おおむね順調に進展している」を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に続けて次年度も、少なくとも研究計画で書いた内容は十分に遂行する。また、予算は引き続き研究文献を購入することに主に使われることになるので、それ以上の進展を目指す。 一方依然新型コロナ感染症拡大は続いており、社会活動・生活形態などは制限を受け続けると考えられる。しかし十分オンラインでの代替手段に適応したため、次年度は研究活動の計画を再構成し、学会活動や論文投稿の機会を獲得し、研究成果の公開により多くの時間と労力を割くことを考えている。
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