2020 Fiscal Year Annual Research Report
Dynamic analysis of interactions between nanoporous gold and integrins using multicanonical molecular dynamics
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20J15644
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
出口 聡一郎 京都大学, エネルギー科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | インテグリン / 分子動力学 / ナノポーラス金 / 細胞シグナル伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
交付申請書に記載した採用1年目の研究実施計画および目標を予定通りに遂行することができた。 具体的には、まず分子動力学(MD)シミュレーションの対象となるインテグリンのフルスケールモデルの作成に取組んだ。ヒトインテグリン αvβ3のアミノ酸配列と Protein Data Bank (PDB)に登録されている断片的な部分結晶構造を鋳型として、ホモロジーモデリングによるインテグリンフルスケール結晶構造の作成に成功した。次に、本研究の主目的である、インテグリンフルスケールモデルへの拡張アンサンブルによるMDシミュレーションを実施し、結果としてin silicoでインテグリンの巨視的な直立化運動(inside-outシグナル伝達)を再現することに成功した。 さらに、フルスケールでのシミュレーションを実行したことによる付加的発見として、インテグリンに配位する”Genuイオン”の生理学的役割を明らかにするという新しい研究成果を得た。Genuイオンはインテグリンの膝部位に配位する二価の金属イオンの総称で、これまで細胞内での生理学的機能が未解明であった。今回、分子レベルでのフルスケールモデルのシグナル伝達機構を解析したことにより、Genuイオンがインテグリンの”膝”部位に特異な応力伝達経路を形成し、細胞外から細胞内への機械的情報の伝達を安定化させる働きがあることを明らかにすることができた。 また、ナノポーラス金をアクチュエータとして用いた遺伝子解析実験により、Iドメインを有さないタイプのインテグリンが、細胞の核への特異的なシグナル伝達経路を形成し、細胞増殖やERKの発現を活性化することを明らかにした。 以上の研究の過程で、多くの論文執筆および学会発表を行うことができ、期待通りに研究が進展したといえる。また、上述したGenuイオンの機能解明に関する論文も現在執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初めに、MDシミュレーションの適用対象となるインテグリンのフルスケールモデルの結晶構造のモデリングに取組んだ。フルスケールの結晶構造は現在までに実験で得られていないため、MODELLERによるホモロジーモデリングを実施した。具体的には、既存のX線結晶構造解析で得られている断片的なインテグリンの結晶構造(PDB ID: 1L5G, 3IJV, 2KNC)とヒトインテグリン αvβ3(ITGAVB3)のアミノ酸配列を鋳型として、最適なフルスケール結晶構造を推定した 続いて、フルスケールインテグリンのinside-outシグナル伝達をMDシミュレーションで捉えるために、インテグリンの直立運動(Bent構造 → Extend構造)を促す方向への拡張ポテンシャルを通常の力場(CHARMM27)に追加した。結果として、グローバルなインテグリンの巨視的直立過程をMDシミュレーションで再現することに成功した。 以上の計算により、Genuイオンと呼ばれるインテグリンの膝部位に配位する二価金属イオンが、インテグリンのinside-outシグナル伝達を安定化させる働きがあることが明らかとなった。Genuイオンは従来その生理学的な機能が不明なであったが、今回の計算によりGenuイオンを介した応力伝達経路(Asp599-Genuイオン-Glu636経路)が膝部位で形成されることで、下流への安定的な機械的情報の伝達を実現させていることが確認された。 また、実験的なアプローチでは、ナノポーラス金に周期的なひずみを与えるアクチュエータを作製し、細胞にインテグリンを介して機械的ひずみを感受させた。遺伝子解析により、ひずみを感受可能なインテグリンはIドメインと呼ばれる挿入ドメインを持たないタイプのみであり、この種のインテグリンが細胞外の情報を核へと伝達し、細胞増殖やERK発現の活性化に寄与することが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度のシミュレーション研究では、インテグリンのフルスケール結晶構造の作成および拡張アンサンブルによるMDシミュレーションの適用に成功し、主にインテグリンのinside-outシグナル伝達に焦点を当てた解析を行ってきた。 今後の課題として、本年度の実験的アプローチで実施したように、インテグリンがナノポーラス金による外部刺激(機械的情報)に対して、どのような構造変化をもって反応し、下流へとシグナル伝達を行うかというoutside-inシグナル伝達の解明にも挑戦していきたい。シミュレーションに基づく分子レベルの視点により、本年度の実験結果のメカニズムの解明・裏付けにも取り組んでいきたい。 また、現在のMDシミュレーションを更に延長することで、インテグリンフルスケールモデルのより広範な構造サンプリングに取り組む方針である。最終的にフルスケールインテグリンの活性化過程を表現する詳細な自由エネルギー地形の取得およびシグナル伝達機構の解明を実現したい。
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Research Products
(10 results)