2020 Fiscal Year Annual Research Report
Constructing an evolutinarily-adequate theory of syntax
Project/Area Number |
20J20039
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松本 大貴 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 生成文法 / 情報構造 / 音韻論 / 言語進化 / 原型言語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、言語進化の問題を問えるような統語理論を構築することである。この目的のために、本研究では、問題を以下の①と②のように下位分類化し、最終的にそれぞれを統合するような③の研究を目指している。 ①併合と呼ばれる再帰的な操作を用いて脳内で生成される階層的な言語表現をコミュニケーション(談話)に用いる際に、どのような規則に基づいてどのような談話的情報(情報構造)がどのような要素に振り当てられるのか。特に、省略(ellipsis)という現象に注目し、当該の現象が情報構造的制約を受けていることを、日本語からの新規な事実を下に主張した。 ②情報構造が与えられた階層的な言語表現が音声化を受ける際、どのような制約を受け、その結果どのような仕方で線形順序や音声的実現が決定されるのか。①の段階で立てた「情報構造が反映されることで音韻構造が変わる」という仮説をさらに促進し、情報構造がどのように反映されることで音韻構造が変化するのかについて、特にRichards, Norvin (2016) (Contiguity Theory. MIT Press)の理論を拡張して説明を試みる。具体的に、情報構造概念の1つである「対比焦点」(Contrastive Focus)が関わる音韻現象について論じたものを、次年度に開催される日本英語学会大会に口頭発表で応募している。 ③①や②のような言語の特徴を、他種や人間の他の認知能力と比較し、併合+それらの規則・制約の全体としての言語進化を問い、その進化シナリオを構築する。以上2つのような言語の特徴(情報構造・音韻構造)とそれらの統語との連関は、これまでの言語進化研究では論じられていない。そのため、まずは言語進化研究が抱える課題としてこれらの言語の下位機能が重要であることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、査読付きの形で論文集への論文掲載が2件決定した。加えて「大会発表論文集」という形で論文3編の発表も決まった(うち1件はすでに発表済み)。さらに、口頭での学会発表も3件行った。また、Covid-19の影響により未開催となっている、進化言語学の代表的国際学会EVOLANGでの口頭発表が採択されていたことも勘案すると、本研究は着実に進捗していると言える。①「省略(ellipsis)と呼ばれる現象に注目した研究」については、すでに述べたように、日本語の名詞句内での省略が情報構造の影響を受けることを指摘したことに加え、その成果をまとめた論文を『言語研究』誌に投稿中である。また、従来日本語にはないとされていた「強勢」(stress)の談話的・情報構造的効果として「総記焦点」(exhaustive focus)があるという発見をした。②「音韻構造がそもそもどのようにして構築されるのかについて原理的説明を与える研究」についても、当初予定・期待されていた以上に理論の精緻化が進んでおり、対比焦点以外の現象への理論の拡張の見通しが立っている。③「言語についての具体的研究を言語進化へつなげる研究」に関しては、①と②の成果がまとまり次第、より具体的な研究に着手していく。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、引き続き具体的な言語現象を説明する理論を構築しつつ、③についてより具体的な提案を試みる。また、研究の成果を随時論文にまとめ、国内・国際雑誌に投稿する予定である。具体的には、以下のように研究を推進する。 ①省略(ellipsis)と呼ばれる現象に注目した研究: 先に述べたような強勢と総記焦点の関係をまとめる。ピッチアクセントの上昇だけでなく強勢も伴う場合は、通常助数詞の省略を許さない構文でも助数詞の省略が可能であるという、先行研究で見過ごされてきた事実を指摘し、国内もしくは国外の学会で発表する。 ②①で指摘した事実を、統語と音韻構造のインターフェースの観点から説明する。特に、対比焦点と総記焦点は音韻的に似たような振る舞いを示すが、両者の間には(定義的に)総記と対比という違いがあり、この違いは音韻的にも異なる実現化を受けると主張する。これにより、両者の「似て非なる振る舞い」を簡潔にかつ原理的に説明できる。研究の成果は、随時学会発表を行い、その成果を元に論文を執筆・投稿する。 ③Richards (2016)に従い、音韻構造の基本的骨格は統語演算(併合)よる統語構造に付随して起こると想定する。この想定のもと、現代の人間言語は、音声記号やそれを用いた歌を表出する際に用いられた原型言語(いわゆる韻律原型言語)から進化したという仮説を立てる。この仮説自体は、古くはDarwinが主張していたものであり、本研究に特に独自性のあるものではないが、これまでその仮説を支持する言語理論は存在しなかった。また、その仮説を検証する術もなかった。本研究では、具体的な言語現象(①や②)を説明する仮説によって韻律原型言語仮説を支持することで、これまで当該の進化仮説に決定的に欠けていた点を補える。以上の主張を、言語進化の代表的な国際学会であるEVOLANGで発表することと、論文としてまとめることを目指す。
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