2020 Fiscal Year Annual Research Report
熱伝導における相加性原理を用いた乱流ゆらぎの定式化
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20J20079
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田之上 智宏 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 乱流 / 超流動 / 臨界現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の究極的目標は、種々の乱流を整理・分類することである。本研究の第一年目では、量子乱流と臨界点近傍における超臨界乱流の振る舞いを理論的に解析した。具体的には、エネルギーが大スケールから小スケールへと連続的に輸送される現象であるエネルギーカスケードの機構に着目することで、これらの乱流と通常の乱流とを比較した。
量子乱流に関しては、量子Euler方程式をOnsagerの理想乱流理論に基づいた現象論を用いて調べた。Onsagerの理想乱流理論は速度場の特異性とエネルギーカスケードとの関係に対する現象論的視点を与える。解析の結果、平均渦間距離より大スケールでは古典乱流と同様のRichardsonカスケードが卓越し、それよりも小スケールでは量子応力由来のカスケードが卓越することが明らかとなった。この量子応力由来のカスケードは本研究で初めてその存在が示唆されたものである。
臨界点近傍の超臨界乱流に関しては、密度ゆらぎの寄与を組み込んだ流体方程式を量子乱流の場合と同様の現象論を用いて調べた。ここでの問題意識は、エネルギーカスケードが「微視的スケール」に到達しうるのかという点である。通常の乱流の場合、エネルギーカスケードは粘性散逸によって打ち切られ、微視的スケールには到達しえない。ところが臨界点近傍の超臨界乱流の場合は平衡密度ゆらぎの相関長が巨視的スケールにまで増大するため、カスケードが相関長以下の「微視的スケール」に到達する可能性がある。解析の結果、平衡密度ゆらぎの相関長より大スケールではRichardson カスケードが卓越し、それよりも小スケールでは密度ゆらぎ由来の新奇なカスケードが生じうることが判明した。この新奇なカスケードは量子乱流における量子応力由来のカスケードと類似している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
量子乱流に関しては、これまで数値的・実験的にしか確かめられていなかったKolmogorovスペクトルを現象論的に導出し、先行研究では見落とされていた量子応力由来のカスケードが生じる可能性を指摘した。これらの成果は量子乱流に関する現象論の整理と位置づけられるため、第一年目の成果としては十分と考えられる。
臨界点近傍の超臨界乱流に関しては、密度ゆらぎ由来の新しいタイプのカスケードが生じる可能性を明らかにした。これは実験的にも数値的にも確かめられていない質的に新しい予言であるため、新奇な乱流現象の探索の第一年目の成果としては十分と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
第一年目では量子乱流と超臨界乱流の振る舞いに関して質的に新しい予言を行うなど、これらの乱流の現象論を整理した。今後の研究では、これら2つの乱流を含む種々の乱流間の類似性を議論するとともに、さらに新奇な乱流現象の探索を行っていく。具体的には、(i)熱伝導現象とエネルギーカスケード現象の類似性に着目することでエネルギー輸送に関する普遍的性質を明らかにし、(ii)乱流全般に共通する普遍的側面を抽出した乱流現象のミニマルモデルを構成することを目指す。
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Research Products
(3 results)