2020 Fiscal Year Annual Research Report
加齢性筋萎縮・肥満の予防改善におけるビタミンDと大豆イソフラボンの作用機序解明
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20J20087
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
内富 蘭 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | サルコペニア / サルコペニア肥満 / ビタミンD / 大豆イソフラボン / 骨格筋 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者の所属する研究室ではこれまでに、FOXO1の転写活性を抑制する食品成分として活性型ビタミンD(1,25(OH)2ビタミンD3)を同定し、活性型ビタミンD がC2C12筋細胞においてFOXO1の標的(筋萎縮)遺伝子の発現を抑制することを見出していた。本年度、in vitroでのさらなる検討を行ったところ、活性型ビタミンDのみならずビタミンD代謝物の25(OH)D3も筋萎縮遺伝子の発現増加を抑制したことを見出した。また、比較的低用量の活性型ビタミンDの添加においても、筋萎縮抑制作用を示すことを明らかにした。現在、C2C12筋細胞にビタミンDを添加したサンプルにおいてマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行っており、その作用経路を解析中である。 一方で、骨格筋のエネルギー消費を活性化する転写調節因子であるPGC1βに関する検討も行った。これまでの検討において、培養細胞(PGC1βを過剰発現させたC2C12筋細胞)に大豆イソフラボン(ゲニステイン、ダイゼイン)を添加したところ、エネルギー消費にかかわる脂肪酸β酸化酵素の遺伝子発現を強く増加させ、さらにミトコンドリアを活性化することを見出している。このことから、大豆イソフラボンが PGC1βの活性化を介したエネルギー消費の増大により抗肥満効果を持つ可能性が示唆されている。そこで本年度は、大豆イソフラボンがPGC1βを活性化する作用経路を明らかとするために、PGC1βを過剰発現させたC2C12筋細胞に大豆イソフラボンを添加し、マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果、脂肪酸β酸化酵素のみならず、その他複数のエネルギー消費にかかわる遺伝子発現も増加させていることが明らかになった。この結果は、リアルタイムPCRでも定量的に確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの感染拡大による情勢の変化から、当初期待されていたほどの研究の進展は得られなかったものの、予定していたin vitroでの培養細胞を用いた実験に関してある程度の進展が見られた。具体的には、マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行い、得られたデータからビタミンDや大豆イソフラボンの添加により変動する因子・経路を明らかにした。また、培養筋細胞を用いた実験により、活性型ビタミンDのみならず非活性型の25(OH)D3も筋萎縮抑制作用を持つ可能性があるという新たな発見も得られた。 本年度、新型コロナウイルス感染拡大に伴い発令された緊急事態宣言により学内への入校制限がかかり実験が中断した際には、すでに得られている実験データの整理・解析や文献調査を行った。具体的には、研究対象であるビタミンDおよびサルコペニアに関する先行研究を調べて総説にまとめ、英文学術誌に報告した(Nutrients 12(10): 3189, 2020)。さらに、マイクロアレイやメタボロームなどの大規模データの解析を行い、特にPGC1α過剰発現マウスの血液のメタボローム解析に関して、得られた研究成果を論文にまとめ共著者として英文学術誌に報告した(Biosci Biotechnol Biochem 85 : 579-586, 2021)。 今後は現在進行中であるin vitro での実験を進めることに加えて、マウスを用いたin vivoでの実験を行う用意を整えており、そちらも併せて進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はin vitroおよびin vivoでの解析の両面から、ビタミンDと大豆イソフラボンの筋萎縮・肥満抑制の作用機序を解明する。 C2C12筋細胞において、FOXO1の転写活性およびFOXO1の標的(筋萎縮)遺伝子の発現は活性型ビタミンD(1,25(OH)2D3)によって抑制される。加えて昨年度の研究結果から、ビタミンD代謝物の25(OH)D3も筋萎縮遺伝子の発現増加を抑制することを見出した。筋細胞におけるこれらのビタミンD代謝物の筋萎縮抑制作用が、ビタミンD受容体(VDR)を介するか否かを明らかにする。siRNAを用いてVDRをノックダウンする、あるいは合成ビタミンD(VDRに特異的に作用するもの、及びVDRに結合せず作用するもの)を用いて、FOXO1の標的(筋萎縮)遺伝子発現への影響を調べる。さらにビタミンDの摂取が筋萎縮を抑制しうるか否かを検討するために、筋萎縮が見られる老齢マウスやFOXO1過剰発現マウスを用いて、ビタミンDを経口投与し、その表現型を解析する。 PGC1βを過剰発現させたC2C12筋細胞に大豆イソフラボンを添加すると、エネルギー消費に関連する遺伝子の発現が増加し、さらにミトコンドリアを活性化する。また、PGC1βは核内受容体ERRを選択的に活性化することが知られる。そこで大豆イソフラボンがERRを介してエネルギー消費を増加させるか否かを明らかにするために、siRNAを用いたERRのノックダウンを行い、エネルギー消費遺伝子発現への影響を調べる。また、大豆イソフラボンの摂取がサルコペニア肥満を抑制しうるか否かを検討するために、筋萎縮と脂肪蓄積が見られる老齢マウスや早老マウスに大豆イソフラボン含有の食餌を摂取させ、その表現型を解析する。さらに、ノックアウトマウスに大豆イソフラボンを投与し表現型を解析し、肥満抑制効果が見られなくなるか検討する。
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Research Products
(4 results)