2020 Fiscal Year Annual Research Report
高濃度電解液中のリチウムイオンホッピング伝導機構の解明と次世代蓄電池への展開
Project/Area Number |
20J20165
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
宇賀田 洋介 横浜国立大学, 理工学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 電気化学 / リチウム系二次電池 / イオン伝導 / 有機電解液 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々の研究グループでは、ある種のリチウム塩高濃度電解液中において、従来濃度の電解液には見られないリチウムイオンの配位子交換によるホッピング伝導機構が発現することを見出してきた。本年度取り組んだリチウム塩高濃度電解液のイオン輸送特性の調査から、スルホランなどのスルホン系溶媒やスクシノニトリルなどのジニトリル系溶媒を用いた高濃度電解液中において、リチウムイオンが溶媒やアニオンよりも速く拡散するリチウムイオンのホッピング伝導機構が発現することを確認した。中でもスルホン系電解液においては、環状のスルホン分子の方が鎖状のスルホンよりもリチウムイオンのホッピング伝導を促進していることを示唆する結果を得た。この特異なイオン伝導機構によって、電解液のリチウムイオン輸率が向上することも明らかにされた。また電気化学特性に関しては、高濃度電解液中のアニオン種がグラファイト負極の界面反応速度に大きく影響を及ぼすといった興味深い現象を見出した。本研究の内容は国際学会においてポスター発表を行い、ポスター賞を受賞した。また、本成果は学術論文としてすでに投稿しており、現在査読中である。 スルホランを溶媒に用いた高濃度電解液に関してはリチウム金属電池への適用を見据え、ガス分析や表面分析等によるリチウムの析出溶解反応の詳細な反応解析を行った。その結果、リチウム金属の析出反応中にリチウム表面でスルホランの還元分解が起き、テトラヒドロチオフェンやブタンなどの副生成物が生成することが明らかになった。これらの副反応は電解液のアニオン種やリチウム塩濃度の最適化によって抑制しうることが示唆された。本結果はACS Appl. Energy Mater.誌に1報掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画に従い、様々なリチウム塩と溶媒の組み合わせからなるリチウム塩高濃度電解液のイオン輸送特性について検討したところ、スルホン系溶媒やジニトリル系溶媒を用いた高濃度電解液中においては配位子が複数のリチウムイオンと相互作用しネットワーク構造を形成することがホッピング伝導の発現に重要であるとの知見を得てきた。これらの高濃度電解液中においては、配位子の並進運動が制限されたネットワーク中では配位子の回転運動によってリチウムイオンの配位子交換が誘発されることが予想され、これらの影響について今後詳細な検討を実施する。また、リチウム塩高濃度電解液のリチウム金属電池への適用も見据え、高濃度電解液とリチウム金属との界面で起こる副反応についても検討し、その反応機構を明らかにした。本結果は、高いリチウム金属の析出/溶解反応の可逆性を示す高濃度電解液の設計指針を提示したという点で極めて重要である。以上の進捗及び成果から、本研究が順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、リチウム塩高濃度電解液中のリチウムイオンのホッピング伝導機構に配位子の回転運動が与える影響を明らかにするために、NMRによる緩和時間測定を実施し、リチウム塩高濃度電解液中における詳細なイオンダイナミクスを解明する。具体的には、本年度に検討したスルホランなどのスルホン系溶媒を用いたリチウム塩高濃度電解液中における溶媒やアニオンの回転相関時間やその活性化エネルギーを算出し、これまで蓄積してきたイオン輸送特性との相関を調査する。また、本年度の検討では、溶媒の非極性部位の構造がリチウムイオンのホッピング伝導に大きく影響を及ぼすことがわかっており、この原因についても溶媒の回転運動の観点から考察する。得られた結果を基にして、詳細なリチウムイオンのホッピング伝導機構とその発現要件を提案する。また、高濃度電解液の高電圧リチウム系二次電池への適用に向けて、電気化学質量分析法やX線光電子分光法などの表面分析等を用いた電解液の酸化分解反応および分解物から成る正極表面被膜に関する詳細な検討も行う。
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