2021 Fiscal Year Annual Research Report
腫瘍増悪因子NRF3によるアミノ酸取り込みを介したがん免疫系抑制機構の解明
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20J20194
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
廣瀬 修平 同志社大学, 生命医科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | NRF3 / mTORC1 / アルギニン / ミトコンドリア / がん |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度において、「①転写因子NRF3によるアルギニン依存的なmTORC1活性化」、「②NRF3-mTORC1軸によるミトコンドリア制御」、「③Nrf3によるがん免疫回避の存在」の3点について明らかにした。 ①昨年度まで、NRF3によるアミノ酸依存的なmTORC1活性化は見出していたが、どのアミノ酸が重要であるかについては不明であった。そこで、すでにmTORC1を活性化するアミノ酸として報告のあるロイシンとアルギニンに着目した。その結果、アルギニンが重要であることを発見し、NRF3はアルギニンの供給とそれを利用したmTORC1活性化システムの両方を誘導することを明らかにした。これらの発見はこれまで報告がなく、がんや糖尿病など様々な疾患と関連のあるmTORC1活性制御のさらなる理解に繋がる。 ②NRF3-mTORC1軸がもたらす細胞内代謝変動を調べ、ATP産生に関わる解糖系やTCAサイクルの代謝が変動することを発見した。そこで、ATP量やミトコンドリア機能・形態、さらにはアポトーシスを測定したところ、 全てNRF3-mTORC1軸の制御下にあることを見出した。これらの知見は昨年度までに見出していた腫瘍形成モデルマウス実験の結果と一致している。 ③最後に、本研究課題の最終目的である腫瘍免疫への展開について報告する。野生型マウスおよびT細胞が欠損した免疫不全マウス(ヌードマウス)にNrf3/コントロールノックダウンマウスがん細胞を皮下移植した。その結果、野生型マウスではNrf3ノックダウンによって腫瘍増大が抑制されたが、ヌードマウスでは抑制されなかった。このことはNrf3はがんの免疫回避にそれにはT細胞が関与している可能性を明らかにした。そこで、マウスに移植した腫瘍を摘出し、T細胞の数を計測した。しかし、T細胞数に変化はなかったことから、T細胞の活性に影響があると推察している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の3点が理由である。 ①「NRF3依存的なmTORC1活性化において、重要なアミノ酸の同定」を完了した点。本研究において、アミノ酸の同定は重要課題であった。なぜなら、本研究課題はそのアミノ酸の独占からがん免疫回避に繋げることが目的であるからである。2021年度にそのアミノ酸はアルギニンであることを明らかにできた。 ②がん細胞がアミノ酸を独占する機構を明らかにした点。NRF3誘導性のアルギニンの取り込み方法には2種類存在し、1つ目は選択的なトランスポーターによる取り込み、2つ目はエンドサイトーシスによる非選択的な取り込み(マクロピノサイトーシス)である。特にマクロピノサイトーシスはがん細胞の増殖に重要であり、低栄養環境でも周囲の脂質やタンパク質等の高分子物質さえも栄養として利用することができる。 ③NRF3を介したがん免疫回避が存在する可能性を見出した点。上述したようにがん免疫への展開は本研究の最終目標であり、NRF3によるがん免疫抑制の可能性を確認できた点は本研究において非常に重要な知見であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、2021年度までの成果を学術論文として報告する。 2021年度において、がん細胞がNRF3依存的にアルギニンを積極的に取り込み、腫瘍増大に寄与すること明らかにした。そこで今後は、本研究の最終目標であるがん免疫回避について明らかにする予定である。アルギニンはがん細胞だけではなく免疫細胞の活性化にも重要であることが報告されいている。つまり、がん細胞がNRF3を介したアルギニン独占によって免疫細胞を弱体化しているという仮説を検証したい。具体的には、がん細胞と免疫細胞を共培養し、アルギニン競合モデルを作成する。NRF3の発現を抑制したときにがん細胞のアルギニン独占状態が解除され、免疫細胞によって除去されることを証明する。さらに、得られた知見をマウス移植モデルでも確認する。
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Research Products
(3 results)