2021 Fiscal Year Annual Research Report
伝播関数の複素解析的構造によるカラー閉じ込め機構の探求
Project/Area Number |
20J20215
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
林 優依 千葉大学, 融合理工学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 量子色力学 / カラーの閉じ込め / 伝播関数の複素極 / グルーオンの閉じ込め / クォークの閉じ込め |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では,強い相互作用の基礎理論であるQCDの非摂動的な性質,特にカラー閉じ込め機構の手がかりを得ることを目的として,伝播関数の複素解析的構造を多角的に検討する。大きな方向性の一つとして,通常の場の量子論の枠組みでは禁止されているものの,いくつかの研究でグルーオンやクォークの伝播関数において存在が示唆されている「複素特異性」に着目し,閉じ込めとの関係を議論する。本年度は,(1) その方向性から言えることについてある程度確立し,加えて (2) 新しい方向性について成果を得た。 (1) 複素特異性の形式的側面・関係する成果のとりまとめ Euclid的場の理論からの再構成の視点で検討を行い,公理とされている重要な性質が成り立つかどうかについて,厳密に判定を行った。これまでは漠然と「複素特異性は局所性に問題がある」とされてきたが,我々は,「複素特異性は緩増加性と正値性条件を破るが,局所性・Poincare対称性と整合している」ことを示し,さらにLorentz共変ゲージにゲージ固定されたゲージ理論のような,不定計量の量子論では,そのような複素特異性が実現しうることを指摘した。加えて,これまでの関係する一連の成果をとりまとめ,学位論文として提出した。 (2) 別の方向性として,クォーク閉じ込めのある側面を捉えていることが期待される比較的簡単な模型 (Cardy-Rabinovici模型) において,非可逆対称性とそれによる相構造への制限について調べた。この模型で局所的にのみ成り立つ自己双対性を,非可逆対称性として実現できることを示し,加えて,その対称性に関わるアノマリーと解釈できる関係式を見つけ,それによる相構造への制限を議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
前年度からの期待通り,複素特異性を持つ伝播関数の一般的性質を明らかにすることができ,本研究課題のメインのアプローチについて,重要な成果が得られた。閉じ込め機構を解明するには至らないものの,一つのシナリオを提示することができた。また,新たな手法を取り込む試みも行い,閉じ込めに関係した仕事を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで,大きな方向性として,「閉じ込めの手がかりとしての複素特異性」を中心として研究を行ってきた。これまでの成果,特に(1)により,「閉じ込めの手がかりとしての複素特異性」についての性質がある程度明らかになった一方,このアプローチの限界も見えてきたため,今後の方向性として,新しい非摂動的手法と組み合わせる必要があると考えられる。また,本研究計画では,「クォークの閉じ込め」に関係したトポロジカルな側面との関連を見ることも狙いの一つのため,その点に関する進展が望まれる。よって,今後の研究推進施策として,トポロジカルな側面によるアプローチを取り込みたい。 そこで,近年,新しい非摂動的手法として,「一般化された対称性」が著しく発展していることに着目した。この手法は理論のトポロジカルな側面を知るのに役に立つため,本研究計画の一部に活かせる可能性が高い。そのような背景で,今年度実績概要(2)に取り組んだ。今後はこの方向性を中心に進展させていきたい。
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Remarks |
複素特異性についての一連の研究を研究室のwebページにて紹介したものです。
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Research Products
(9 results)