2020 Fiscal Year Annual Research Report
シロアリにおける社会レベルの免疫システムとしての巣仲間認識・排他行動の機構解明
Project/Area Number |
20J20278
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小西 堯生 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 動物行動学 / 昆虫生態学 / 社会性昆虫 / シロアリ / 超個体の生理学 / 巣仲間認識 / 排他行動 / 社会免疫 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、シロアリの非巣仲間排除行動に対する王と女王の影響を明らかにし、論文発表を行った。従来、コロニーの敵対性評価に用いられてきたアッセイは少数のワーカーあるいは兵隊のみをシャーレ内で遭遇させる簡易なものであり、本来コロニーが守るべき生殖カーストの存在については考慮されてこなかった。野外で採集したコロニーから「王と女王を含む集団」と「王と女王を含まない集団」を作成して侵入者(同種の巣仲間、同種の非巣仲間、異種)に対する攻撃性を比較したところ、ワーカー・兵隊ともに王と女王の不在下では同種の非巣仲間に対する攻撃性が有意に低下した。また、実際に非巣仲間に対して攻撃を行ったワーカーおよび兵隊の割合についても同様に、王と女王の不在下で有意に減少した。これらの結果から、王と女王の存在がワーカーおよび兵隊の非巣仲間排除行動を促進することが明らかになった。詳細な機構の解明については今後の課題であるが、おそらく王や女王が生産するフェロモンが引き金となり、認識あるいは行動発現の閾値を変化させると考えられる。野外コロニーの社会環境を反映して敵対性をより明確に検出することが可能になれば、しばしば敵対性の欠如を報告してきた先行研究の結果を再解釈できる。 また、シロアリのコロニーから生殖を担う王・女王が失われると非巣仲間排除行動をはじめとする様々な利他行動のレベルが低下し、社会の統制が失われる現象にも着目して研究を進めた。フィールド調査および飼育実験から、特に王の存在がコロニーの統制において重要な役割を担っており、王を失ったコロニーでは物質のフローが変化することが明らかになった。さらに、リアルタイムPCRを用いた遺伝子発現解析により、王の不在下でワーカーが着服した窒素源を利用して利己的な生殖を行う可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究成果は真社会性昆虫におけるカーストに基づいた分業の本質を理解する上できわめて重要な知見であり、来年度さらなる発展が望まれる。また、研究成果のアウトプットについても積極的に行った。シロアリの非巣仲間排除行動に対する王と女王の影響を示した論文は国際学術誌Insectes Sociauxに掲載された。同論文は掲載号の注目論文に選出され、編集部のハイライト記事で紹介されるなど高い評価を得ている。また、王の不在下でコロニーの統制が失われる現象について、第65回応用動物昆虫学会大会において英語口頭発表を行い、Best English Presentation Awardを受賞した。以上より、期待通りの進展がみられたため上記の評価に値する。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、シロアリのコロニーから生殖を担う王・女王が失われると非巣仲間排除行動をはじめとする様々な利他行動のレベルが低下し、社会の統制が失われる現象に着目して研究を行う。特に窒素源のフローや代謝に関連する遺伝子発現に着目してカースト間比較を行い、得られた遺伝子についてRNAiや阻害剤を用いた逆遺伝学的な機能解析を実施することで社会システムの維持に関わる分子基盤の解明を試みるのが今後の課題である。
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Research Products
(3 results)