2020 Fiscal Year Annual Research Report
合成糖鎖の代謝取り込みを利用した好熱性古細菌における翻訳後修飾糖鎖の機能解析
Project/Area Number |
20J20284
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
平尾 宏太郎 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 好熱性古細菌 / N-グリカン / グリコシル化 / リン酸化 / イノシトール |
Outline of Annual Research Achievements |
N結合型糖鎖(N-グリカン)は,タンパク質のアスパラギン側鎖に結合した翻訳後修飾糖鎖で,真正細菌・古細菌・真核生物の全ドメインの生物が保持し,様々な生命現象に関与する.本研究では,超好熱性古細菌 Thermococcus kodakarensisのN-グリカンに着目し,i)その単離構造決定,ii)イソプレン脂質(ドリコール)の結合した N-グリカン生合成前駆体の合成,iii)合成糖鎖の生合成系への代謝取り込みを利用した生細胞系での機能解析によりN-グリカンの機能発現の分子基盤を解明することを目的とする.原始的な生物である好熱性古細菌において,糖鎖が耐熱性獲得果たす役割を明らかにすることで,糖鎖の普遍的な機能に迫る.本年度はこのN-グリカンの化学合成を達成した. T. kodakarensis のN-グリカンは単離・構造決定の結果,多数の糖が置換したイノシトール骨格と2糖がリン酸で架橋した非常にユニークな構造であった.まず,myo-イノシトールに対し,1位選択的にリン酸化した.その後,イノシトール骨格にグルコサミン,ガラクトサミンを導入した多糖骨格を構築した.このイノシトールの1位リン酸基に対して,2糖フラグメント(Glu-GalNAc)の連結を検討した.このリン酸基は嵩高く,反応性が低いため,これまでの縮合剤による反応は進行しなかった.そこで,糖の2級アルコールを反応性の高い脱離基で活性化し,リン酸基によるSN2反応により,2糖フラグメントの連結し,N-グリカンの全骨格を構築した.2糖の連結後,保護基を順次除去することで,N-グリカンの合成を完了した.本研究は,T. kodakarensisのN-グリカンの化学合成達成により,天然構造のみならず,非天然,標識糖鎖など多様な糖鎖供給し,糖鎖が耐熱性獲得果たす役割を明らかにし,糖鎖の普遍的な機能に迫ることを可能にする.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでに,超好熱性古細菌Thermococcus kodakarensisのN-グリカンの単離・構造決定に成功していた.この糖鎖が,T. kodakarensisの耐熱性獲得にどのように寄与するのか,分子レベルでの解析するために,この糖鎖を合成し,構造を確定するとともに,この糖鎖を純粋に,かつ,十分量供給することが必須であると考え,この糖鎖の化学合成に取り組んだ.この糖鎖の合成においては,i) メソ体のイノシトールの不斉化,ii) イノシトールへの多数の糖の導入,iii) 嵩高い反応点でのリン酸トリエステル構造の構築,が合成課題であった.まず,myo-イノシトールに対し,不斉リン酸化試薬を用いて1位選択的にリン酸化した.その後,イノシトールの保護基を掛け替え,グルコサミン・ガラクトサミンを順次導入し,多糖骨格を構築した.残りの2糖骨格をイノシトールの1位リン酸基に対して連結したリン酸トリエステル構造の構築を検討した.このリン酸基周りの嵩高さにより反応性が低く,縮合剤(DCC,CDI,PyBOPなど)によるリン酸基を活性化する条件では反応が進行しなかった.そこでアルコール側に脱離基を導入し,活性化することで,リン酸基からのSN2反応条件を検討した.検討の結果,リン酸基を金属塩とし,反応系中にカチオン補足材存在下でリン酸基の求核性を向上させることで,SN2反応が進行し,N-グリカンの骨格構築を達成した.その後,導入した保護基を順次除去することで,T. kodakarensisのN-グリカンの合成を完了した.現在はこのN-グリカンの還元末端へのリン酸化およびドリコールの連結反応により,糖転移前駆体への誘導を検討中である.この糖転移前駆体を合成後,糖転移酵素によるタンパク質への糖鎖転移を評価し,構造活性相関研究および糖鎖が耐熱性へどのように寄与するのか分子レベルで解析する.
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Strategy for Future Research Activity |
N-グリカンはタンパク質と複合体して機能を有するため,合成したN-グリカンを生細胞系へ代謝的に取り込ませることで,その機能評価を行う.そのために今後,本研究課題は,i)N-グリカンとドリコールの連結による糖転移前駆体の合成,ii) 合成N-グリカンのタンパク質への付加とN-グリカンの機能評価,を行う.i)について,N-グリカンの合成が完了したため,N-グリカンの還元末端アノマー位のα選択的リン酸化およびドリコールの連結を検討する.N-グリカンのアノマー位へのα選択的リン酸化は当研究室で条件が確立されており,それを適用する.このリン酸基に対し,脱離基を有するドリコールを連結することで,糖転移前駆体へと誘導する.ii)について,古細菌の細胞膜は真核生物とは異なり,エーテル脂質で構成されているため,合成済みのドリコールを用いて,生細胞系への膜取り込みの検討をする.その後,合成T. kodakarensis N-グリカンを代謝的に取り込ませ,高温における生存率や増殖率を評価する. N-グリカンは保水性・耐乾燥性・耐塩性へ寄与する可能性が考えられるため併せて総合的に評価する.続いて,N-グリカンの構造活性相関研究を行う.好熱性古細菌のN-グリカンは,多分枝で,アニオン性の官能基を持ち,アセチル化アミノ糖を含むものが多い.分枝数やアニオン性は広い保水領域の確保,アセトアミドはタンパク質との水素結合によるコンフォメーションの規定に役立っていると予想できる.そこで,天然のN-グリカン構造からから分枝糖やリン酸,アセトアミドを除いたN-グリカンを取り込ませた古細菌の環境応答性を調べ,糖鎖の構造と機能を結びつける.また,アジド標識糖鎖とクリックケミストリーによりタグの導入後,糖鎖修飾を受けたタンパク質およびその位置を同定し,N-グリカンによるタンパク質の高次構造の安定性寄与を調べる.
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