2020 Fiscal Year Annual Research Report
Comparative morphology on trident structure of baculum in Muroidea
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20J20295
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
谷戸 崇 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 外部生殖器 / 陰茎骨 / 繁殖戦略 / 生殖隔離 / 形態多様性 / 比較形態学 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本に生息するネズミ科4属6種とキヌゲネズミ科3属5種の外部生殖器を用いた比較形態学的研究を実施した.用いたすべての種の陰茎遠位部には,正乳頭突起と側乳頭突起があり,それらが三叉構造を構成していた.ネズミ科の正乳頭突起には骨または軟骨があり,側乳頭突起は軟組織のみ確認された.一方,キヌゲネズミ科の正乳頭突起と側乳頭突起はともに骨化がみられた.正乳頭突起と側乳頭突起の発達の程度の違いによって,陰茎の形態の変異が生じていると考えられた.アカネズミとタイリクヤチネズミの組織構造の結果から,側乳頭突起は海綿体洞に血液が溜まることで,陰茎骨体との結合部を支点に外側に可動し,その動きによって陰茎遠位部の断面積の増加をもたらすことが示唆された.本研究成果は国際学術雑誌Mammal Studyへ投稿し,受理された. また,側乳頭突起が小さいネズミ類の比較形態学的研究を実施し,ネズミ科のハツカネズミとカヤネズミの側乳頭突起の組織学的な構造を調べた.その結果,ハツカネズミでは,側乳頭突起の広い範囲を海綿体洞が占めていたが,カヤネズミでは側乳頭突起に海綿体洞がほとんど観察されなかった.このことから,ハツカネズミでは,アカネズミと同様に側乳頭突起が可動すると考えられた.一方,カヤネズミでは側乳頭突起に海綿体洞がほとんどないため,血液によって可動は出来ず,側乳頭突起によって陰茎遠位部の断面積を増加させる機能は殆どないと考えられた.カヤネズミの陰茎遠位部では側乳頭突起ではなく,その周囲の組織が断面の多くの割合を占めており,ここの海綿体洞に血液が溜まることで陰茎遠位部の断面積の増加を果たしていると考えられた. さらに,陰茎遠位部の三叉構造と繁殖様式に関する研究を実施した.キヌゲネズミ科ヒメキヌゲネズミ属3種の陰茎骨の形態を比較したところ,陰茎骨の形態は同属内でも種ごとに大きく異なることが明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は計画していた研究内容をおおむね予定通りに実施し,研究を進展させたといえる.日本に生息するネズミ科4属6種とキヌゲネズミ科3属5種の外部生殖器についての研究成果を論文としてとりまとめ,日本哺乳類学会が出版する国際学術雑誌Mammal Studyに受理された.また,側乳頭突起の小さいハツカネズミとカヤネズミの組織切片を用いた形態比較で新たな成果が得られ,その内容を公益社団法人日本動物学会第91回大会2020でポスター発表した.今年度は,新型コロナウイルス感染拡大防止措置の影響で,当初予定した地域でのフィールド調査が困難な状況ではあったため,一部予定を変更し長崎県と京都府で研究に必要なサンプリングを実施した.また,宮崎大学で飼育繁殖している種を研究に用いるための調整を進め,共同研究を進展できた.繁殖様式の異なるヒメキヌゲネズミ属3種の比較を行い,陰茎骨の形態の違いを確認することができた.研究手法は,当初行っていたHE染色に加えて,マッソントリクローム染色を取り入れ,組織構造の解明に向けた改善を行えた.マイクロCTで撮影し,画像解析ソフトのAmiraによる予備的解析と解析条件の試行をはじめており今後それらを用いた解析も含めて研究成果をまとめていく予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究実施から明らかになったことを踏まえて,側乳頭突起が小さいネズミ類の比較形態学的研究を当初の計画の通りに進め,国際学術雑誌へ投稿するために論文を執筆する.一方,陰茎遠位部の三叉構造と繁殖様式に関する研究とモリアカネズミを用いた陰茎骨およびその周辺組織の成長に関する研究については,当初計画していたアリザリンレッドSによる染色による観察をだけではなく,昨年度から新たに取り入れたマイクロCTによる撮影およびAmiraによる解析も取り入れて実施していく.新型コロナウイルス感染拡大防止措置の影響で,当初予定していたベトナムなどの海外でのサンプリングは未だに厳しい状況ではあるが,今後の状況を踏まえて臨機応変に対応をしていく.
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