2020 Fiscal Year Annual Research Report
パイ共役分子を水素結合で組み上げた巨大自立空孔をもつ機能性材料の自在構築
Project/Area Number |
20J20301
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
鈴木 悠斗 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 水素結合性有機フレームワーク / 多孔質 / 水素結合 / カルボン酸 / 非平面π共役分子 / π-πスタッキング / メカノクロミック |
Outline of Annual Research Achievements |
非常に多くの微細な空孔を持つ多孔性材料は、その空孔内の特異な環境による機能発現が期待される。この一種である水素結合性有機フレームワーク(HOF)は、可逆的な水素結合によって構成されるため結晶性と再利用性に優れているが、剛直かつ多様な構造を得難い。これに関して、申請者は非平面π共役分子がズレずにかみ合って積み重なる「かみ合い積層」の手法により、弱点である剛直性を克服した構造の構築に成功している。これまではヘキサアザトリフェニレン(HAT)を中心骨格とした2つの誘導体にのみかみ合い積層を適応できているが、その他の非平面π共役分子へ適応することが出来れば剛直なHOFの自在構築が可能となる。 本研究ではまず中心骨格の探索を行った。 非平面π共役分子のジベンゾ[g,p]クリセンを中心骨格とした誘導体を用いたところ、かみ合い積層によるHOFを得ることが出来た。分子が単純に真上に積み重なる積層構造であり、空孔内分子の除去や200℃の加熱を行っても永続的な多孔性を示すほか、光伝導性を示す機能性HOFであることを明らかにした。 また、凝集誘起発光特性をもつことで知られるテトラフェニルエテンをカルボキシフェニル基で拡張した誘導体を用いてHOF構築を試みた。広いπ共役平面を有さない構造により、かみ合い積層による集積はしなかったが、有機フレームワークとしては初めての構造である三軸編み込み構造をとることがわかった。また当構造の機械刺激に対する蛍光発光波長と量子収率の変化を明らかにしている。 それぞれの成果は、同君が筆頭著者として研究論文を執筆し、化学の一般学術誌であるおよChem. Commun.及び Chem. Eur.J.受理されている。特に後者では査読者および編集者より高い評価を受け、hot paperに選出されるとともに表紙絵の一つに採用された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、水素結合性有機フレームワーク(HOF)の欠点「構造の剛直性、設計性」を克服しうる構造体構築を目指し、非平面π共役分子のずれない積層「かみ合い積層」によるHOFの自在構築と高機能性HOFへの展開を目指している。 申請者は、剛直HOFの設計指針として、用いる誘導体を二つのパーツ、中心骨格と周辺官能基に分けて分子設計を行っている。中心骨格、周辺官能基をそれぞれ設計し組み合わせることで様々な構造体が構築でき、機能化への展開も簡便であると考えられる。 まず、中心骨格の設計を行い、かみ合い積層の適応範囲の拡大を行った。実際にジベンゾ[g,p]クリセン骨格としたテトラカルボン酸誘導体ではかみ合い積層による剛直なHOF構築を達成した。空孔内分子を取り除く際に構造転移が生じるものの、高い結晶性と1500m2g-1 を超える高い比表面積の永続的多孔性を示すほか、光伝導性を示すなど、機能性を有する剛直HOFの構築に成功している。また、この周辺官能基の設計による構造転移の抑制をめざし、周辺官能基を嵩高くした誘導体を合成しHOFの構築を試みている。 他にも非平面π共役分子でない、テトラフェニルエテン骨格を用いたHOF構築を試みることで、かみ合い積層構造でない構造体を得ており、分子の集積に対する考察を行っている。また、当構造はメカノクロミック挙動をしめす機能性を有していた。 以上のように、中心骨格の検討による剛直HOFの構築に成功しているほか、周辺官能基の設計検討も進行中であることから、当研究は概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
申請者はこれまでに、中心骨格の設計をもとにした「かみ合い積層」HOFの構築を主とし研究を行ってきている。これにより、ヘキサアザトリフェニレン、ジベンゾ[g,p]クリセンの2つの骨格がかみ合い積層を行うと明らかにしている。今後は、さらなる「かみ合い積層」のHOF構築指針の一般化のため、異なる非平面π共役分子を中心骨格とした誘導体を設計する。具体的には9,9’-フルオロニリデン(BFN)などの分子内の立体障害により非平面構造をとる分子をコアとして用いたテトラカルボン酸誘導体などの合成を試み、結晶化による剛直HOF構築を行う。さらに、周辺官能基の設計検討も進めてゆくことで、かみ合い積層による同形な多孔質構造体の自在構築指針を築き上げる。具体的には、標準的な周辺官能基としてあげられるカルボキシフェニル基に代わり、ナフチル基やビフェニル基、ビピリジル基などの嵩高さや形状の異なる構造を導入することで得られる多孔質構造の性質の変化、改善を試みる。さらに、金属導入可能部位や反応活性部位を周辺官能基として導入することで、機能化を行ったHOFの構築とその応用を試みていく。 こうして得られた構造体は、放射光を用いた単結晶X線回折測定や粉末X線回折測定等による結晶構造解析により、実際に設計通りの多様な構造得られるか判断し、適切な分子設計指針を構築する。 以上について学会等でディスカッションを行うことで問題点や改善点 を見いだし分子設計指針にフィードバックしていく。
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