2021 Fiscal Year Annual Research Report
ニュートリノ混合角の精密測定による新しいレプトンセクター対称性の探索
Project/Area Number |
20J20304
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小田川 高大 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | ニュートリノ / 原子核乾板 / J-PARC |
Outline of Annual Research Achievements |
長基線ニュートリノ振動実験であるT2K実験においては,ニュートリノと原子核との反応の不定性が系統誤差の要因となっている.本研究では水標的原子核乾板検出器を用いたニュートリノ反応精密測定であるNINJA実験によってこの不定性を削減し,ニュートリノ振動の精密測定を通じて新物理探索を行うことを目指している. 当該年度は,昨年度に引き続き2019年度に行われたNINJA実験の測定データの解析を進めた.原子核乾板は時間情報を持たない検出器であり,原子核乾板中の飛跡と下流のミューオン検出器中の飛跡とを接続するためには,位置分解能が高く時間情報も持った検出器が必要となる.そのため,これらの間にはシンチレーショントラッカーとエマルションシフターという2つの飛跡接続用の検出器が設置されている.解析アルゴリズムの開発を行い,昨年度の6倍の統計を用いて飛跡の接続を実行した.また得られたデータを用いてシンチレーショントラッカーの性能評価を行い,位置・角度分解能や検出効率を求めた.性能評価の結果については論文としてまとめ,現在学術雑誌に投稿中である. また,原子核乾板検出器中での運動量測定手法の開発を開始した.NINJA実験においてはニュートリノ反応由来の荷電粒子の運動量および角度の情報を精密に測定することが,反応モデルの理解の上で必要不可欠である.原子核乾板間における荷電粒子の多重散乱を用いた運動量測定手法を開発した.NINJA実験でこれまでに用いていた手法と比較して,検出器中での荷電粒子のエネルギー損失を考慮した点,粒子の進行方向に垂直な軸を用いて角度を測定した点,および角度分解能を適切に評価した点などから性能が向上し,運動量分解能として最大10%程度の性能を実現した. また,名古屋大学で実験に用いた原子核乾板がスキャンされ,すべての飛跡の認識が完了した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度より解析を継続し,まずは予定通りシンチレーショントラッカーの性能評価を行った.昨年度に開発したアルゴリズムを改良した上で6倍の統計(最終目標の1/9)を用いた飛跡接続を実行し,接続された飛跡をもとにシンチレーショントラッカーの位置・角度分解能や飛跡接続効率を求めた.これらの値は当初の設計目標を概ね達成しており,検出器間での飛跡接続が問題なく行えていることが確認できた.また,物理解析をすすめる上でのいくつかの課題も発覚しており,解決の上,全統計での飛跡接続が行われる見通しである.以上の内容についてまとめ,学術論文として投稿中である. また,反応由来の荷電粒子の運動量測定については従来の手法を見直し開発を行った結果,当初の予想を上回る性能が期待されることがわかった.原子核乾板の高い角度分解能を活かし,NINJA実験の測定範囲を広げる重要な開発であり,今後測定データを用いた評価を完了させ学術論文として発表する. その他,飛跡が貫通した物質量を用いた運動量測定手法や,粒子の角度の測定手法についても開発をすすめ,反応解析に必要な要素が概ね出揃った状況である. また,原子核乾板検出器中での解析についてはすべての飛跡認識が完了した.以上の結果をもとに2022年度中に測定結果を学術論文として発表する見通しがたち,順調にニュートリノ反応測定にむけて解析を進められている.
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず現在解析アルゴリズム中で測定データとモンテカルロシミュレーションとの間で取り扱いの乖離があるという問題を解決する.これは,測定データに膨大な量のニュートリノビームと関係のない飛跡が混入していることに由来しており,モンテカルロシミュレーションにおいても同様に飛跡の再構成や接続を行うことで対処する. また,シンチレーショントラッカーを用いた飛跡接続については2021年度に発覚したいくつかの問題を解決する.特に低運動量・大角度の飛跡について接続効率が低いという問題があるが,接続の許容値を適切に拡大することで対処する. 以上をもとに解析に用いるデータセットを確定し,開発済みおよび開発中の角度・運動量測定手法をもとにニュートリノ反応由来の荷電粒子の測定を行う.以上の測定結果を学術論文として出版する. また,ニュートリノ反応由来の荷電粒子の運動の相関をもとに他の実験では探索できない領域について測定を行い,ニュートリノ反応のモデルについて新たな制限を与える.その際、T2K実験のエキスパートたちと協力し、ニュートリノ振動解析においてNINJA実験の結果がどのようなインパクトを与えるか検証する.
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