2020 Fiscal Year Annual Research Report
シロイヌナズナ葉肉プロトプラストを用いた細胞の分化可塑性の機構解析
Project/Area Number |
20J20380
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
坂本 優希 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 分化多能性 / 幹細胞 / 細胞分裂 / 器官再生 / 植物ホルモン |
Outline of Annual Research Achievements |
本奨励費採択前の研究により、葉肉プロトプラストの分裂再開に必要な因子として2つの分子的要因が同定されたため、この2つを足掛かりに、分裂再開に至る分子ネットワークを描写することを目標とした。本年度は、特に第1の因子である植物ホルモンの役割について大いに知見を得ることができた。これまではホルモン生合成阻害剤を用いた分裂再開可否の評価実験によってその重要性を見出したのみにとどまっていたが、本年度は阻害剤の添加タイミングを細分化する実験や、生合成経路に関わる遺伝子について作出した多重変異体や過剰発現体を用いて分裂再開可否を評価することで、この植物ホルモンの生合成が葉肉プロトプラストの最初の分裂には極めて重要である一方で、その後の連続的な細胞分裂には影響を与えないことを見出した。これは、この植物ホルモンが単なる細胞周期制御因子であるわけではなく、分化細胞のリプログラミングという点で発生学的に重要な意義をもつことを示唆している。ホルモン応答性を可視化する蛍光タンパク質マーカーラインを用いた連続観察により、生合成がプロトプラストにおけるホルモン応答活性化に必要であることがわかった。また、トランスクリプトーム解析によりこの植物ホルモンが細胞周期の特定の時期において細胞周期遺伝子の網羅的な転写活性化を行うことが示唆された。さらに、それらの細胞周期遺伝子群の活性化を制御するマスター因子Xの発現がこの植物ホルモンによって制御されている可能性があること、マスター因子Xの変異体では葉肉プロトプラストの分裂再開効率は有意に低下することも発見した。マスター因子Xの変異体は通常発生においては細胞分裂に大きな影響を示さないため、これらの結果は、植物ホルモンの生合成がこのマスター因子を介して、リプログラミングの文脈に特異的な仕組みで葉肉プロトプラストの分裂再開を制御することを意味すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画当初には、葉肉プロトプラストの分裂再開に重要な2つの因子の双方について機能解析を進め、その2つの相互関連についても手掛かりを得ることを目標としていたが、第2の因子の機能解析については技術的障壁が大きいため、本年度中にはほとんど進捗を得られなかった。しかし一方で、第1の因子については予定以上のペースで役割が判明してきており、さらにその下流において細胞周期への作用により直接的に働くと考えられるマスター因子の存在まで示唆を得ることができた。これらを総合し、研究目的の達成に向けた全体的な進展は概ね順調であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降も、引き続き第1の因子を中心として分子ネットワークをさらに詳細に解析する予定である。例えば、この植物ホルモンとマスター因子Xの間をつなぐ制御機構を明らかにしたい。このために、葉肉プロトプラストにおけるマスター因子Xのタンパク質量やその修飾状態を解析する実験系を確立し、通常の培養条件とホルモン生合成量を変化させた条件とで比較をする必要がある。また、この植物ホルモンがマスター因子Xとは独立した経路でも並行して分裂再開に寄与している可能性も考えており、この検証のためのイメージング系の開発も進めたい。さらに、本年度中には触れることのできなかった第2の因子の役割や第1の因子との相互関係についても、次年度以降に解析に取り組みたく、所属研究室で現在進行中である実験系改良の取り組みと連携しながら進める予定である。
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