2021 Fiscal Year Annual Research Report
超弦理論におけるコンパクト空間の幾何学から導かれる素粒子現象論的性質について
Project/Area Number |
20J20388
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
内田 光 北海道大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | コンパクト空間 / トーラスオービフォルド / モジュラー対称性 / フレーバー対称性 / 非可換離散対称性 / アノマリー / マヨラナ質量 |
Outline of Annual Research Achievements |
素粒子標準模型における3世代クォークおよびレプトンの質量階層性の起源や世代(フレーバー)混合の起源などフレーバー構造に関する謎は多く残されている。 超弦理論は観測している4次元時空に加えて観測されないほど小さく丸められた(コンパクト化された)6次元コンパクト空間の存在を予言している。そして、適当なコンパクト化で得られる3世代クォークおよびレプトンのフレーバー構造がコンパクト空間の幾何構造に関係していることが示唆されてきた。実際、これまで行った研究により、適当な背景磁場の入ったモジュラー対称性という幾何学的対称性を持つトーラスオービフォルドコンパクト化において、得られる3世代フェルミオンが背景磁場の大きさに依存した特定の非可換離散群によるモジュラー対称性由来のフレーバー対称性を持つことが明らかになった。また、クォークおよび荷電レプトンの質量を与える湯川結合係数のモジュラーフレーバー対称性についても明らかになった。 一方、ニュートリノの質量を説明するためのマヨラナ質量項をDブレーンインスタントンと呼ばれる非摂動効果によって得ることができる。本年度は、その非摂動効果で得られるマヨラナ質量項を計算し、そのマヨラナ質量行列のモジュラーフレーバー対称性を明らかにした。さらに、フレーバー対称性として用いられる非可換離散対称性が非摂動効果により一般にどの程度破れ得るかを明らかにし、実際にマヨラナ質量項においてモジュラーフレーバー対称性がどの程度破れているかも明らかにした。 マヨラナ質量項を計算しそのフレーバー対称性を明らかにしたことで、ニュートリノ質量やレプトンのフレーバー混合についてもそのモジュラーフレーバー対称性で説明できるようになると考えられる。また、非可換離散対称性の非摂動効果による破れを一般的に明らかにしたことは、非可換離散対称性を用いたあらゆる研究にとって有意義であると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
3世代フェルミオンのフレーバー構造の起源を、超弦理論で予言されるコンパクト空間の幾何構造から二通りの方法で探究する計画を立てていた。 一つ目のコンパクト空間の幾何学的対称性、特にトーラスやそのオービフォルドが持つモジュラー対称性由来のフレーバー対称性からフレーバー構造を探究する方法に関しては、背景磁場の入ったトーラスオービフォルドコンパクト化において、湯川結合係数だけでなくマヨラナ質量行列のモジュラーフレーバー対称性を明らかにし、またマヨラナ質量項全体でその対称性のうちのどの部分が対称性として残っているかを明らかにした点では進展があった。しかし、ニュートリノの質量やレプトンのフレーバー混合についてモジュラーフレーバー対称性から探究することに関して、現在研究進行中であるものの研究成果として到達できていない点では全体としてやや遅れている。 一方、二つ目のトーラスオービフォルド特異点をブローアップして(滑らかに丸めて)変形した多様体を用いてフレーバー構造を探究する方法に関しては、2次元トーラスオービフォルドだけでなく4次元トーラスオービフォルドに拡張するために、背景磁場の入った4次元トーラスオービフォルドコンパクト化について研究を進めたものの、ブローアップ多様体の構成までには至っていない。一方、2次元トーラスオービフォルド特異点をブローアップした多様体においては進展が見られている。しかしまだ研究成果には至っていないため全体としてやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、背景磁場の入った2次元トーラスオービフォルドコンパクト化で得られるクォークやレプトンのモジュラーフレーバー対称性が特定されて、それらの湯川結合項およびマヨラナ質量項のモジュラーフレーバー対称性も明らかになった。今後は、それらのモジュラーフレーバー対称性に着目して、クォークおよびレプトンの質量やフレーバー混合などの実験値の再現を試みる。また、トーラスオービフォルド特有の特異点近傍の構造をブローアップした多様体を用いて明らかにし、その特異点構造が与えるフレーバー構造についても探究する。さらに、二つの方法に関してともに4次元トーラスオービフォルドに拡張して2次元トーラスオービフォルドと同様の解析を行っていく。
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Remarks |
本年度内に他大学での(オンライン)セミナーを1件行った。
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