2020 Fiscal Year Annual Research Report
統合的動的模型を用いたクォークグルーオンプラズマの輸送的性質の研究
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20J20401
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
金久保 優花 上智大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 高エネルギー原子核衝突反応 / クォークグルーオンプラズマ / ストレンジネス / 相対論的流体力学 / モンテカルロイベントジェネレータ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、高エネルギー原子核衝突反応を重イオン同士の衝突から陽子同士のような小さいサイズの衝突系まで包括的に理解することを目的として、「コア-コロナ描像に基づく動的なQGP流体生成模型」の構築を目指す。重イオン同士の衝突反応における生成粒子はクォークグルーオンプラズマ(QGP)という局所平衡下にある流体起源であり、小さいサイズの衝突系ではQCDと紐破砕という非平衡な物質がその起源となる。本模型は、生成粒子数に応じてこの2つの描像を繋ぐことであらゆるサイズの衝突反応を包括的に記述するものである。本模型のベースとなる理論的枠組みは特別研究員採用以前にPhysical Review C誌において発表した。令和2年度はこの模型に残されていた課題、1) 初期パートンの流体化モデルの精巧化と、2)ハドロンの再散乱の導入を行った。 1)本模型では衝突初期に生成されたパートンからのエネルギー・運動量流入がQGPの湧き出しになる。以前の模型では、パートン同士の多重な2次散乱によって局所平衡状態であるQGPが生成されると考えるコア-コロナ描像のもと、単に初期パートンの数密度に依存した流体化をモデルとして取り入れていた。そこで初期パートンの軌道と衝突断面積を幾何学的に解釈することによって、実際に初期パートンの衝突を考慮することのできるよう流体化モデルを精巧化した。2)ハドロンの再散乱はQGP流体からハドロン化した直後にも存在するはずであるハドロン間の相互作用を指す。以前の模型ではこうした相互作用は考慮されておらず、得られた結果を実験と直接比較することができなかった。本描像の導入によってこうした課題を解決することができ、特にハドロンの再散乱の効果が大きいとされる重イオン同士の衝突において、ハドロンの運動量分布とバリオン収量比の生成粒子数依存性の実験データの記述に大きな改善が見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響により、当初予定していた長期滞在による共同研究者との研究推進が叶わなかった。一方で、テレワーク下に置かれても予定していた4つの研究実施計画項目のうち3つを達成し、数値シミュレーションへの実装まで行うことができたため、おおむね順調であると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
模型の実装が済んだため、基本的な物理量の解析を行い実験データと比較してパラメータを固定する。固定した一つのパラメータセットで本模型が陽子同士衝突と重イオン衝突の実験データを同時に記述できるかどうかを調べることで、陽子同士衝突におけるQGP生成の可能性を吟味する。
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