2020 Fiscal Year Annual Research Report
酸化グラフェンを触媒として用いた新規半導体表面加工技術の開発
Project/Area Number |
20J20411
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
窪田 航 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 酸化グラフェン / 半導体加工 / アシストエッチング / 触媒 / シリコン / 活性点 / 反応速度論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では二次元炭素材料である酸化グラフェンをシリコンのエッチング反応に対する触媒として用いた半導体加工技術の開発を目指している.この手法では,酸化グラフェンを担持したシリコンをフッ化水素酸および酸化剤からなるエッチング液に浸漬すると,酸化グラフェンが酸化剤還元反応を促進し,その対反応であるシリコン酸化反応が酸化グラフェン直下でのみ促進されることで,酸化グラフェン被覆部のシリコンが優先的に酸化溶解するという現象を利用している.これまでの研究で,フッ化水素酸および過酸化水素からなるエッチング液を用いることでアシストエッチングが可能であることが確認された.しかし,そのエッチング速度は1 nm/hと非常に遅く,エッチング速度の向上が工業的応用には不可欠であった.そこで本研究では,エッチング液の酸化剤として新たに硝酸の利用を検討した.さらに,酸化グラフェンアシストシリコンエッチング改良の指針を得るために,反応速度論および触媒活性点の二つの観点から反応機構解明を試みた. 酸化剤として硝酸を用いた場合アシストエッチング速度が20 nm/minとなり,従来法と比べて飛躍的に向上した.また,酸化グラフェン被覆部と非被覆部におけるエッチング速度の温度依存性を調査してアレニウスプロットを作成したところ,被覆部と非被覆部で活性化エネルギーにほとんど違いはなかった一方で頻度因子が大きく異なることが示された.このことから反応種の吸着頻度がエッチング速度に影響を及ぼすことが示唆された.さらに,炭素材料の触媒活性点としてよく議論される構造欠陥に焦点を当て,構造欠陥密度の異なる酸化グラフェンをアシストエッチングに適用すると,欠陥密度の高い酸化グラフェンにおいて高い触媒活性を示した.このことから,構造欠陥が反応種の吸着サイトとして機能することでエッチング反応を促進することが明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はエッチング液についての検討を行い,酸化剤として新たに硝酸を用いることで,従来法と比べてエッチング速度の飛躍的な向上に成功した.また,アシストエッチングの反応機構について,速度論的に解釈するとともに,触媒活性点を同定することに成功した.この結果は,今後のアシストエッチングの改良における新たな指針となることが期待される. 現在,酸化剤として硝酸を用いた際のシリコン表面のポーラス化抑制という課題を解決するための新たなプロセスの適用やエッチング手法について検討している. 以上のことから概ね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では酸化グラフェンアシストシリコンエッチングにおけるエッチング液について検討し,エッチング液の酸化剤として新たに硝酸を用いることでエッチング速度の向上に成功した.一方で,アシストエッチングによってシリコン最表面にポーラス構造が形成されてしまうこと,反応中に発生する水素等の気泡によって,酸化グラフェンがシリコン基板表面から一部剥離することが確認された.今後はこの欠点を克服するため,新たにアシストエッチングへの気相法適用を試みる.気相法を用いると,気泡が発生せずに反応物の供給脱離が行われるため,触媒の剥離が抑制される.加えて,気相法では,反応物の拡散が律速であることが予想されるため,液相法よりも基板部分でのシリコン酸化溶解反応が抑制できる.これらのことから,気相法の適用によって液相法で生じた課題の解決を試みる. 続いて,酸化グラフェンの構造最適化による触媒能の向上を試みる.これまでの研究では酸化グラフェンの構造欠陥に焦点を当て,酸化グラフェンアシストエッチングの活性点同定に取り組んだ.構造欠陥密度の低い酸化グラフェンが低い触媒活性を示すことから,構造欠陥が活性点として機能することが示唆された.これは,酸化グラフェン内の電子密度の偏在化によって,反応種の吸着しやすい点が形成されることが原因だと予想される.しかし,構造欠陥密度が高すぎるとグラフェン骨格構造が失われることでエッチング速度が低下することも確認している.これらの知見を基にシリコンエッチング反応に対する酸化グラフェンの触媒能向上を目指す.今後は酸化グラフェンの構造欠陥だけではなく,ナノカーボン材料の触媒活性点としてよく議論される窒素や硫黄といった異種元素のドーピングについても検討予定である.
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