2020 Fiscal Year Annual Research Report
道義的建築論に基づく都市スラムの形成メカニズムの解明と新たなスラム改善手法の開発
Project/Area Number |
20J20421
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
阿部 拓也 筑波大学, 人間総合科学学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | スラム / 道義的建築 / 居住環境 / 形成メカニズム / デザイン / 実践 / フィールドワーク / タイ |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者はタイ最大のスラムと称されるクロントイで調査をしてきた。その調査のなかで、住民が、やってよい建築行為と、やってはならない建築行為を判断する価値観をもつことを発見した。申請者はこの価値観を「道義」とよんだ。また「道義」が反映された居住環境を「道義的建築」とよんだ。本研究では、申請者が「道義的建築」とよぶ居住環境の形成メカニズムをあきらかにする。そのうえで、その成果を活かした、スラムの居住環境の改善手法を開発することを目的とする。 今年度は、COVID-19の感染拡大により、タイに渡航できなかった。そのため、現地調査はおこなえず、本研究の基礎となる文献資料の収集・分析に取りくんだ。 今年度の成果として、以下の2つがある。 ① 本研究の基礎となる概念として、スラムと、インフォーマルをレビューした。この2つは、専門家や、政策策定者の立場から物事をとらえる概念である。そのため現地での現象を住民の立場から理解する助けにはならない。以上から、この2つの概念をつかわずに、住民の立場から現地社会の実態をあきらかにするために、現地の言葉を発掘する方向性をしめした。この成果は、日本建築学会の「都市インフォーマリティから導く実践計画理論[若手奨励]特別研究委員会」の公開研究会で口頭発表した。 ② タイ政府が主導するクロントイの再定住事業への対処法を提案した。ここでは、かつてクロントイで実施された再開発にたいして、住民が再開発以前の生活体験で培われた価値観を活かして、再開発後の居住環境を再構築したことをしめした。この再開発に対応した住民の居住環境を形成する力は、再定住を乗りこえるときの鍵となると結論づけた。この成果は日本建築学会大会で口頭発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の進歩はやや遅れている。 本研究では2つの調査を予定する。第1段階では、個々人の家屋をめぐるライフストーリーをあつめ、現在の居住環境が形成されるまでのプロセスをあきらかにする。第2段階では、家屋の建設・増改築の現場に参与し、既存の居住環境が今ここで改変される状況をリアルタイムで記録する。この2つの調査をふまえて、クロントイの居住環境の形成メカニズムをあきらかにすることで、本研究の目的を達成する予定である。2020年度は第1段階の調査をするつもりだった。しかし、COVID-19の感染拡大により、現地調査が不可能となった。この状況では予定どおりに研究計画を遂行できないと判断した。そのため、2020年4月から2021年3月まで、特別研究員の採用を中断し、文献レビューに取りくんだ。 他方で、特別研究員の採用の中断期間においても、2つの成果を発表したことは評価できる。第1に、「スラム概念・インフォーマル概念のレビュー」では、この2つが他者のまなざしにもとづく概念であることをあきらかにした。このレビューをつうじて、道義的建築が住民の立場から居住環境の成りたちをとらえる概念であり、スラム・インフォーマルの問題点をおぎなうものとして位置づけられることを確認した。第2に、「再定住への対処法」では、本研究の成果を応用する対象を、「スラムの居住環境の改善」から、「よりよい再定住手法」へと明確にした。以上の理由から、この2つの成果は、本研究に有益だと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、タイに渡航できるのであれば、第1段階の「個々人の家屋をめぐるライフストーリー」の調査を予定する。渡航できないのであれば、オンラインでの聞き取り調査をおこなう。なお、第1段階の調査はともかく、第2段階の「家屋の建設・増改築の現場に参与」はオンラインでの調査は不可能だ。それゆえ、2022年度もタイに渡航できないのであれば、上記の計画を大幅に修正しなければならない。
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