2020 Fiscal Year Annual Research Report
Influence of geographic isolation, host shift and plant diversification on the diversification and geographic distribution of lace bug
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20J20483
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
相馬 純 九州大学, 生物資源環境科学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 分類学 / 生物多様性 / カメムシ目 / グンバイムシ科 / 寄主転換 / 東アジア / 地理的隔離 / 植食性昆虫 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は,論文と短報が査読付き学術雑誌に計14本掲載・受理され,国内の学会発表は3回行った.主要な研究論文2編の内容について以下に述べる. 小笠原諸島固有のグンバイムシ科の1新属新種:グンバイムシ科は寄主特異性の高い植食性昆虫である.高空や海上での採集例が少なく,飛翔能力をもつ属が地理的に種分化しているので,移動分散性が低いと推測される.特定の植物しか利用できない性質は,移住先での定着率を低下させていると考えられる.実際に,海洋島に分布するグンバイムシは,多くが固有の分類群である.そのため,海洋島におけるグンバイムシの多様性解明は,生物の種分化を考察する上で良い材料となるだけでなく,自然環境の保全に貢献する可能性がある.日本の海洋島では,小笠原諸島から固有のオガサワラグンバイ属の2種が知られているが,その昆虫相はグリーンアノールによって脅かされており,早急な多様性解明が必要である.同諸島産のグンバイムシ科標本を形態形質に基づき再検討した結果,固有の1新属新種が発見された. 日本産オオホシカメムシ属(オオホシカメムシ科)の分類学的再検討:オオホシカメムシ属は日本から従来5種が知られ,そのうちの2種,オオホシカメムシとヒメホシカメムシはカンキツなどの果樹を加害する.しかしながら、ヒメホシカメムシと近縁2種(Physopelta cincticollis,アカヒメホシカメムシ)の同定は長らく混乱していた.本属としては史上例を見ない,技術的に観察が困難な部位を含む形態形質の比較検討により,日本からのP. cincticollisとアカヒメホシカメムシの記録はヒメホシカメムシの誤同定であることが判明し,1新種P. fusciscutellataが南西諸島から記載された. 純粋な研究業績を積み重ねるだけでなく,自身の研究対象の最新の知見を日本語で提供する,普及用のホームページを開設した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はCOVID-19の流行に伴い,予定していた国外の野外調査は全く行えず,国内の野外調査も制限的な実施となった.しかしながら,論文と短報が査読付き学術雑誌に計14本掲載・受理され,国内の学会発表(口頭)は3回行うことができた.したがって,研究活動に制限を受けた条件において,最善に近い成果を挙げたと考えている.結果的に,日本産のグンバイムシ科の種分類に関する研究は計画通り進展したと考えている. フィールドワークに関しては,調査許可申請手続きを行い富士箱根伊豆国立公園でマルグンバイなどの調査を行ったほか,与那国から北海道までの日本各地で計画的に研究材料の収集を行った.既存のコレクションを活用し,小笠原諸島固有の新属新種を記載したほか,最近は琥珀化石の共同研究にも着手している.ツツジグンバイ属に関する分子実験では,グンバイムシ科の先行研究の乏しさもあって手法の開発に苦労しているが,寄主植物側の研究者と意見交換するなどして試行錯誤を重ねている.行方不明,あるいは国外研究機関所蔵のタイプ標本に関しては該当する機関の担当者に問い合わせを進めており,一部は状況が明らかになりつつある.これら特別研究員の課題と並行し,オオホシカメムシ属で詳細な交尾器形態の比較に基づく分類学的再検討の論文を執筆し,普通種の学名の変更や新たな形態用語の提案ができた. そのほか,グンバイムシ科の情報発信のためにHPを作成し普及活動を行う傍ら,相次いで中止,延期を余儀なくされた学会大会に代わる発表の場としてオンライン基礎昆虫学会議を若手研究者と共に新たに企画し,運営として活躍した.第二回目の会議には約250人の参加があった.従来の学協会の枠にとらわれない企画だからこそすぐ実現できた側面はあろうが,多くの研究者や学生にとって意義深い,withコロナ時代に求められる社会的な提案となったと信じている.
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Strategy for Future Research Activity |
COVID-19の感染拡大に伴い,国外での野外調査が行えなくなったので,令和2年度に引き続き国内の陸生カメムシ類の多様性解明により注力する予定である.令和3年度は,大雪山系や屋久島の高地などで固有の植物に寄生する陸生カメムシを重点的に調査するつ計画を立てており,既に許可申請書類の一部は提出済みである. 研究課題の中心であるグンバイムシ科の分類では,日本産ツツジグンバイ属のうち,クスノキ科植物を利用する種群について,形態形質とミトコンドリアCOI遺伝子の比較検討により,隠蔽種の存在を令和2年度に見出している.とくに,植栽のクスノキやタブノキを加害しうるタブグンバイ―クスグンバイ種群については,一部の種のタイプ産地である房総半島と,固有の個体群が分布する伊豆諸島で,分子実験用の新鮮なサンプルを令和3年度前半に確保し,それらの遺伝子解析を早急に済ませる予定である.その後,タイプ標本の写真を依頼先の海外の協力者から提供され次第,原稿の執筆を開始し,令和3年度後半の論文投稿を目指していく. 日本産本属のツツジ科植物を利用する種群については,現時点で認識している形態種のうち,シャクナゲ類に寄生する種群がミトコンドリアCOI遺伝子で種の識別ができなかったので,核遺伝子などの領域を解析して,この現象の意義を議論していく予定である.国内における本種群の分布と多様性の実態は未だ底の知れない状態なので,各地に固有のツツジ科植物に注目した野外調査は引き続き行う.タイプ標本については,行方不明となっている種の現況調査と,国外の研究機関に存在する種の写真の撮影依頼を継続する, 形態形質と遺伝子解析の両面から,日本産ツツジグンバイ属の真の種多様性を解明した後は,属内の系統樹を作成し,寄主植物の多様化プロセスや地理的隔離を交えて,日本列島を舞台に特異的に多様化した植食性昆虫の自然史を議論する予定である.
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Remarks |
研究機関の収蔵標本の活用と日本産陸生カメムシ類の知見の普及を目的としたWebページを作成した.令和3年度以降も引き続き更新する予定である.
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