2021 Fiscal Year Annual Research Report
Influence of geographic isolation, host shift and plant diversification on the diversification and geographic distribution of lace bug
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20J20483
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
相馬 純 九州大学, 生物資源環境科学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 分類学 / 生物多様性 / カメムシ目 / グンバイムシ科 / 寄主転換 / 東アジア / 地理的隔離 / 植食性昆虫 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は,論文と短報が査読付き学術雑誌に計17本掲載・受理され,国内の学会発表は2回行った,さらに、現在6本の論文が投稿中である。COVID-19の感染対策を徹底して当初の予定通り国内の野外調査を実施できた.野外調査で得られた数千個体のサンプルを用い,グンバイムシ科、マキバサシガメ科、クヌギカメムシ科、カメムシ科の形態比較を中心にカメムシ目の分類学的研究を勢力的に進めた.グンバイムシ科については,ミトコンドリアDNAと核DNAの塩基配列によるジェノタイピングや系統解析に取り組んだ。グンバイムシ科の遺伝子解析は先行研究に乏しく,プライマーの開発や実験条件の絞り込みに時間を要した.しかし,研究計画の中心に据えていた種はDNAの抽出が完了し,ミトコンドリアDNAと核DNAの幾つかの領域は解析が進展した.ツツジグンバイ属では形態情報と分子情報を比較したことで,興味深い知見がもたらされた.化石種との比較形態や,東南アジア諸国のサンプルを用いた国際共同研究など,新たな研究の展開や人脈の開拓ができた.海外の研究機関や調査地には自ら行ける状況ではなかったが,現状に即した効率的な計画を立て,課題達成に向けて着実な研究活動を実施できた.令和3年度の代表的な研究成果は以下の通りである. ①ツツジグンバイ属のクスノキ科植物に寄生する種の分類:形態形質の比較とDNAバーコーディングにより,3未記載種を含む計10種の本属が日本のクスノキ科植物に寄生することが判明した.これら10種は地域と環境ごとに棲み分けており,とくにタブノキには各地域に固有の6種が存在する.論文は現在投稿中である. ②アシブトマキバサシガメ亜科の分類:有用天敵として期待されながらも,分類学的研究が長らく停滞していた日本産マキバサシガメ科であったが,西日本を中心に複数の未記録種が発見された.成果の一部は2本の論文として公表済みである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度もCOVID-19の流行に伴い,予定していた国外の野外調査は全く行えなかった.しかし,国内の野外調査は滞りなく実施できた.さらに,論文と短報が査読付き学術雑誌に計17本掲載・受理され,国内の学会発表(口頭)は2回行うことができた.したがって,研究活動に制限を受けた条件において,想定以上の成果を挙げたと考えている.結果的に,日本産カメムシ目はグンバイムシ科だけでなく、マキバサシガメ科、クヌギカメムシ科、カメムシ科でも種分類に関する研究が大きく進展した. フィールドワークに関しては,調査許可申請手続きを行い屋久島国立公園でヤクシマシャクナゲに寄生する固有種ドレイクグンバイの調査を行ったほか,北海道や八丈島などの日本各地で計画通りに研究材料の収集を行った.新たに提供されたコレクションを活用し琥珀化石と東南アジア産種の共同研究に着手している.ツツジグンバイ属に関する分子実験では,グンバイムシ科の先行研究が乏しく手法を試行錯誤していたが,プライマーの開発や最適な実験条件の探索に成功した.行方不明,あるいは国外研究機関所蔵のタイプ標本は該当する機関の担当者に問い合わせを進め,一部を自らの手で再発見したことで,概ね原稿が明らかとなった.特別研究員の課題と並行し,マキバサシガメ科、クヌギカメムシ科、カメムシ科の日本産種の分類に一定の成果を挙げた. 令和2年度までに,グンバイムシ科の情報発信のためにHPを作成し普及活動を行っていたが,令和3年度はオオホシカメムシ科とマキバサシガメ科のページを作成した.一方,相次いで中止,延期を余儀なくされた学会大会に代わる発表の場として,昨年度に若手研究者とともに企画したオンライン基礎昆虫学会議は,今年度は第三回目の開催を行った.約150人の参加があり,おおむね好評だった.令和3年度もwithコロナ時代に適応した研究活動を行えたと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
COVID-19の感染拡大に伴い,国外での野外調査は令和4年度も行えないと思われるので,令和3年度に引き続き国内の陸生カメムシ類の多様性解明により注力する.令和4年度は,四国と奄美大島の照葉樹林で固有の植物に寄生する陸生カメムシを重点的に調査する予定であり,すでに許可証が発行済みである. 研究課題の中心であるグンバイムシ科の分類では,日本産ツツジグンバイ属のうち,ツツジ科植物とクスノキ科植物を利用する種群について,形態形質の比較検討により,未記載種の存在を令和2年度から令和3年度にかけて見出している.クスノキ科植物に寄生する種群は,既に論文を投稿済みであり,令和4年度中の出版を目指している.ツツジ科植物に寄生する種群は,一部の種で追加のサンプリングを行い,未調査の地域で未知種の探索を行う. 日本産本属のツツジ科植物を利用する種群については,現時点で認識している形態種のうち,シャクナゲ類に寄生する種群が核遺伝子とミトコンドリア遺伝子のサンガーシーケンス解析では種の識別ができなかったので,次世代シーケンス解析を視野に入れている.国内における本種群の分布と多様性の実態は明らかになりつつあるが,各地域に固有のツツジ科植物に注目した野外調査は引き続き行う.タイプ標本については,おおむね現況が明らかとなった. 形態形質と遺伝子解析の両面から,日本産ツツジグンバイ属の真の種多様性を解明した後は,属内の系統樹を作成し,寄主植物の多様化プロセスや地理的隔離を交えて,日本列島を舞台に特異的に多様化した植食性昆虫の自然史を議論する予定である.
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Remarks |
研究機関の収蔵標本の活用と日本産陸生カメムシ類の知見の普及を目的としたWebページを作成した.令和4年度以降も引き続き更新する予定である.
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