2020 Fiscal Year Annual Research Report
行為・知覚ベースの聴空間表象形成に関わる要因の特定と反響定位能力の推定
Project/Area Number |
20J20490
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
前澤 知輝 北海道大学, 文学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 作業記憶 / 視覚 / 聴覚 / 空間表象 |
Outline of Annual Research Achievements |
多感覚刺激は聴覚と視覚の信号を伴って出現し,低次または高次の段階で逐次処理される。低次段階における視聴覚信号は,空間解像度や神経活動関連部位等の点で異なっており,その後も区別可能な空間表象に保持されている可能性がある。例えば,高次の記憶システムである作業記憶で,視聴覚情報が同じ或いは異なる構成要素(e.g., 視空間スケッチパッド)で保持されるかが議論されてきた。一方で,作業記憶の役割は情報の保持ではなく,表象の操作も含まれるため,情報更新の際に視聴覚情報が共通の空間情報として利用されるかが重要である。 本年度では,空間的作業記憶における視聴覚表象の共通性に着目した。具体的には,Cornoldi et al. (1991)の迷路歩行課題を拡張した。この課題では,被験者は逐次呈示(1 s)される視聴覚方向手がかりに従って標的位置を更新し,最終移動地点を報告した。合わせて4つの実験を行い,このうち実験3では,PESTを用いて視聴覚手がかりの弁別閾値を等しくした。課題はブロック間において,視覚手がかりが連続する場合(視覚条件),聴覚における場合(聴覚条件)と,視覚・聴覚が無作為に入れ替わる場合(混合条件)に分けられた。同時に構音抑制を行った。空間情報がモダリティに関わらず作業記憶の同じ構成要素で操作されている場合,全ての条件において課題成績が等しくなると予測される。実験の結果はこの予測を支持した。すなわち,混合条件においてモダリティの入れ替わりコストが生じない・あるいは低減されたことを示しており,空間的作業記憶の共通性が支持された。一方で,視聴覚手がかりの空間弁別性に差があるとき,すなわち視覚の弁別性が聴覚よりも優れている場合において,視覚条件における正答率が高くなることから,刺激の弁別性の違いが課題成績に影響を及ぼしていた可能性が考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は音響工学研究領域に携わる他機関研究者の協力の下で,実験の刺激を作成し,反響定位課題に使用する予定であった。しかし,新型コロナウイルス感染症の流行に伴って,外部研究機関へ往来することが難しくなった。また,共同研究者の事情が変化したことにより,実験刺激作成を当研究室において行う事に予定を変更した。 本年度では主に,刺激の作成や予備実験の実施に注力した。バイノーラルマイクを購入し,建物内の廊下を利用することで距離情報を含んだ音響刺激を作成した。学内に防音設備が整っていないため,この刺激は多くのノイズを含み,知覚実験に対しては使用が限定されるが,高次認知機能を測定するための用途としては可能である。VRを利用することで,計画時に考えていた実験の簡素化を実施することができた。実験はVR上で立体音響を呈示し,被験者の反応を測定することで,PCを使用した従来の実験に比べて,より拡張した事態で検討を行うことが可能となった。ただし,視聴覚刺激の厳密な同期や,防音等の技術的問題を解決していないために,今後検討を重ねていく予定である。 また,進行中の実験と並行して,終了した計画で得た知見を論文としてアウトプットした。研究実績に記載の内容は,今年度の秋に予定されている国際会議で発表をする予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目で構築したVRを含む実験環境を主として,クロスモダルな注意に焦点を当てた計画を進行中である。多感覚統合の空間法則によれば,聴覚手がかりと視覚標的の同時呈示が知覚的処理を促進する。これは異なるモダリティ知覚が1つのイベントから生起するという連合を強化し,こうした事態においては注意選択や作業記憶課題における,標的検出,弁別,再認の反応時間や正答率が高くなることが知られている(e.g., Botta et al., 2013)。聴覚手がかりは視覚手がかりに比べて空間的解像度が低い。特に奥行方向の知覚は,実際の音源に対して過大・過小推定してしまう(Kolarik et al., 2016)。すなわち,知覚的な空間で一致する聴覚手がかり・視覚標的は,物理空間では一致しない。本研究では知覚的に一致(=物理的不一致)する聴覚の奥行手がかりが視覚探索に及ぼす影響について検討していく。 この計画はVRを用いた奥行き方向における音源定位課題と,視覚探索課題の二部構成で実施する。音源定位課題(n=20)において,被験者は奥行き方向に呈示される視覚手がかりおよび聴覚手がかりの知覚距離をそれぞれ回答する。線形回帰を用いて実際の手がかり位置に対する知覚位置を求める。視覚探索課題では,線形式から聴覚手がかりの知覚位置を推定し,音の知覚位置と一致する場所に視覚標的を呈示した場合(知覚的一致条件)および物理的空間上で一致する場合(物理的一致条件),どの空間にも不一致の場合(不一致条件)の視覚探索成績を比較する。この計画で得た知見は,主に基礎心理学会や国際会議で発表予定である。
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