2020 Fiscal Year Annual Research Report
伝統の継承と革新 フランシスコ・デ・ビトリアの国家・教会論
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20J20501
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
木場 智之 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | ビトリア / 初期近代 / 法制史 / 教会法 / 公会議主義 / 自然法 / サラマンカ学派 / 政治思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
フランシスコ・デ・ビトリアのDe potestate ecclesiae priorとDe potestate ecclesiae posteriorの二つのラテン語の著作の読解を行い、ビトリアの教会論の基本的な問題軸の把握を行なった。教会論第一で特に問題と思われるのは、教皇、教会が世俗権力を有すると言う考え方をビトリアが執拗に論駁しており、さらに聖俗権力の並立といったモデルを提示しようとしているのに対し、その後の論立てにおいては一転して教皇の世俗権力に対する介入権を肯定していることである。第二の教会論では先行する教皇主義者の議論に忠実と思われる箇所も散見されるが、その独自性が際立つ。特に団体自体の権力とその管理を担う者の権力をいかに概念化するかについて、キリストによるペテロの指名という出来事が強調され、教皇の首位性の強調に繋がっているように思われるが、その一方で彼の議論からは同時にその権力をあくまで教会の維持に限定しようとしているため慎重な性格規定が必要である。このような解釈上の問題を踏まえ今後は、1. ビトリアが規範の絶対性を強調している自然法論を参照し、そこから団体の最上位者にたいする制約のあり方を確認し、2. 更にビトリアが教会論を展開している最後のテクストであるDe potestate papae et conciliiを読解することで、教会内の制度である公会議とその決議と、教皇権の関係を把握することが重要である。当該テクストにおいてビトリアは同時代の教皇庁による、頻繁な公会議決議等への免除については否定的であり、公会議決議の拘束力を、公会議の教皇への優位性を否定しつつも強調していることが読み取れるため、そこからビトリアの理解する教会権力(ひいては教皇の権力)と規範の関係を、法的、神学的側面を意識しつつ解明することが重要となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
問題としてコロナの影響によって海外の資料調査や研究集会の参加が行えなくなり、研究スタイルを整えるための時間が必要となったことが挙げられるが、2020年12月に刊行された『西洋中世研究』への論文の掲載が行われた。ビトリアのDe potestate civiliの議論を再検討する中で、教会論で用いられている論拠と世俗権力論で用いられている論拠が、君主制的構造の用語などについて類似している箇所も散見されるため、その並行関係と相違点を見ることで、教会論の特性をより一層明確に把握できることになるし、同時代の論者との目的意識の違いも把握できることになる。 国内において中世史、トマス・アクィナス、教会法をテーマにしたゼミへの参加によって、自身の研究と隣接分野との接続を意識した知見を獲得し、原典講読によって語学力も更に向上した。 また、次年度刊行される『国家学会雑誌』の学界展望の原稿を執筆し、ビトリアを中心とするサラマンカ学派に関する最新の研究を概観することで、研究動向に関する理解を深めた。これは本来の計画の修正を補って余りある成果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
ビトリアが規範の絶対性を強調している自然法論(『神学大全』第二部第一部分第90問題の注解が対象となる)などの議論を参照し、そこから団体の最上位者にたいする制約についていかなる理論化を行っているか、ないしはその理論の端緒が見出されるかを論ずることで、教皇権の制約の側面を見出し、さらにそこに教会のメンバー等が関与する余地があるのかを把握することが必要であり、2. 更にビトリアが教会論を展開している最後のテクストであるDe potestate papae et conciliiを読解することで、具体的な教会内の制度である公会議とその決議と、教皇権の関係を把握することが重要である。当該テクストを概観したところによればビトリアは同時代の教皇庁による、頻繁な公会議決議等への免除については否定的であり、公会議決議の拘束力を、公会議の教皇への優位性を否定しつつも強調していることが読み取れるため、その点についての理解を深めることで、ビトリアの理解する教会権力(ひいては教皇の権力)と規範の関係を、法的、神学的側面を意識しつつ解明することが必要である。 以上の問題意識を踏まえラテン語のテクスト読解を中心に行って行くこととなる。
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